双極
12
「どう思いますか、伏木蔵くん」
「うん、すごいスリルだと思う」
今起きた出来事を名前さんは僕に問う。
僕と名前さんがたまたま食堂に入るタイミングが一緒だった。食事を終えようとしている利吉が視界に入った。
「利吉さん。今日も山田先生にご用事ですか?」
「あ、ああ」
では、失礼する。と真っ先に去っていってしまう。なかなか目を合わせようとしない利吉に名前は何かしてしまったのではないかと不安になったのだ。
「最近よく利吉さんは学園を訪れるのだけれど、私と会ってもあんな感じで…あ、このエビフライおいしい」
定食の美味しさをを誉めつつも、その声に覇気がない。失礼かもしれないが、悩みの少なそうな名前さんがこのように悩むのは何か凄いスリルとサスペンスが起こるのではないかと、そんなことを考えてしまう。
「私、きっと何かしてしまったんだと思うんです。そうでなければ、人の良い利吉さんのことです、あんなに…あんな素気なくなってしまうことなんてないかと」
利吉さんに原因があるという考えよりも、まず自分を疑った名前さん。きっと、この人はたとえどんなに相手に原因があったとしても、相手のせいにすることはないんだろう。そういう考えは甘いと、悪い奴に漬け込まれると言うけれど、そんな人がいたって僕はいいと思う。名前さんを見てたらそう思えた。
「何か心あたりは…?」
「それが結構ありすぎて、何が気に障ってしまったのかわからないんです」
困った顔でエビフライを尻尾まで食べ切った。パリッパリッと咀嚼音が聞こえる。原因を突き止められないとなると解決は難しかった。
「ハッ…!もしかしたら、私のポンコツぶりに愛想尽かして、これ以上関わりたくないと思われたのかも」
口に含んだものを飲み込むと何か閃いたようだった。それが検討外れなのか当たっているかは僕には分からない。けれど、名前さんよりポンコツの名を欲しいままにしている小松田さんを差し置いて彼女のみにそのような態度を示すだろうか。
「それはないかと…」
「あ、謝らないと。まだ利吉さんは学園内にいるかもしれないっ」
僕の声は聞こえていないようだった。焦っている名前さんは「ご馳走様でした」と、いつも通りに食堂のおばちゃんに美味しかったという旨と感謝の言葉を忘れずに済ますと食堂を後にする。
「何故か…何故か、利吉さんに嫌われたく、ないんです」
自分でもわからない感情が湧き上がったのだろう。胸を押さえて苦しそうな表情だった。すぐに背を向けて行ってしまったのでそれ以上引き留めることは出来なかった。
「スリルとサスペンスだなぁ」
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