落花流水
オモカゲ
張唐将軍は今はいない故人を想い、宵月を眺め酒を呑んだ。
今も覚えている。体力は並で人よりも士気は低く見える割に功績を挙げていた男がいた。そうはいっても力量だけでいうと五千人を率いるのが限界だっただろう。
戦場では珍しく、剛力な男が多い中で華奢な体つきをしていた。酒も飯も人以上に平らげてもこれなのだと笑い話の一つにしていた。
彼の一番印象に残っているのは目だ。
武功を挙げて名を轟かすと意気込む者。妻子供を残し、里に想いを馳せる者。戦場という明日生きるか死ぬかという現状を嘆く者の瞳は数多く見てきた。しかし、彼奴はそのどれにも属していない。
「僕は士族だから、出兵するしかなかったんです」
「なっ…!!」
張唐がいつ頃だっただろうか、軍兵を集めるため選抜試験を行い、見事通過した兵士に話しかけた時に男はそう言って眉を下げて微笑んでいたのを思い出す。
拳に力が入る。こんなヘタレが士族にいたと思うと情けなくてしょうがない。恥晒しだ。そんな軟弱な理由で来たのなら追い返そうと思っていた。
「だけど、戦場に行けば何か見つかるかもしれないとも思って」
そう言った彼は張唐と目を合わせた。張唐は彼の澄んだ瞳に少しばかりの決意と希望が奥にあると悟った。
形容し難いが、とても綺麗な目をしておった。戦場に似つかわしくない少し変わった雰囲気をした男だった。
『戦場に行ったら何かが見つかると思いました』
訪ねて来た少女がそう言った。
「全く…妙な部分が似てしまったものよのォ」
その少女は彼と全く同じ瞳で自分を見つめた。親子とは知っていても鳥肌が立つほど、あの瞳の持ち主にはもう会えぬと思っていたから。
顔立ちは全く似ておらず、母親似なのだろう。顔だけでも良縁が来そうな可憐な娘だ。
「お主の娘は中々見込みがあるぞ」
そう言って月に盃を交わす。水面下に映る月も今日は一層輝いて見える。
これといって重宝していたわけでも、意識していたわけでもない。しかし、思い出してしまうほどには、自分は奴に好感を持っていたのだと彼が死んでから気づいた。
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