塩味
01
「名前、君も少し素直になった方がいい。もう一度だけ聞こう。俺の事がどれほど好きか」
「これくらい」
「だからなんで消しゴム一個分なんだ!しかも割と使い古している方!」
朝からうるさいという意見に賛成だ。荒北と同じクラスの彼女は納得できないと嘆く東堂をみて眉を顰めている。彼女の目はそう物語っていた。
そろそろ新しい消しゴムに変えようと思い、新調した消しゴムと、世代交代を余儀なくされている消しゴム、彼女は後者を東堂への愛の大きさに選んだ。割と小さいんだな、と朝の数少ない教室にいた数人と教室に戻るついでについてきた部員の誰もが思った。
「目に見えないものの大きさを聞くからよ」
「それでも口にしてもらいたいだろう?!彼女の!口から!」
この二人を見ていると普通のカップルからしたら男女の位置が真逆ではないかと荒北は思ってしまう。名前はあっさりとした…例えるなら塩ラーメンのような奴だ。本人が塩ラーメンが好きと言ってたからそう例えたが割と的を得ていると思う。豚骨好きな人からすると物足りないのかもしれない。しかし、荒北はそのようなあっさりさっぱりとしていて、サバサバ感のないマイルドな感じが結構気に入っていた。
「今日も大変だな、お前」
「私と尽八くんとでは愛情表現に差があるの」
ケータイを続きながらそう呟いた。東堂から送られてくるメールの5回のうち1回の割合でメールを返すと言う。きっと彼にメールを打っているのだろうと思った。
彼女と東堂の熱量の差は明らかであった。恋愛とは愛情の重さが同じくらいの重量ではないと上手くいかないと誰かがテレビで言っていた気がする。
なら教えてほしい。何故このカップルはうまくいっているのか。よく東堂がギャーギャーと騒いでいるが、お互いの口から別れるという言葉は出てこない。傍からみれば美男美女のお似合いなのだが、近づけばわりとどこにでもいる騒がしいカップルだ。男女が逆なだけで。
「私、尽八くんの事結構好きだよ」
「ならなんで消しゴムなんだよ、ていうか本人に言えよな、塩女」
そう、彼女は偶に惚気を聞かせてくるときがある。それを当の本人は知らないのだが。
「モノで例えるの好きじゃないの。だから適当に答えてる」
もう打ち終わったのか送信ボタンを押して携帯をしまう。
「好き、愛してるって言葉があるんだからそれで表したらいいのにね」
きっと彼女に恋愛小説を見せてもそこまで感動することはないと思う。荒北は面倒な事に首を突っ込みたくない人間だ。彼女の考えを肯定することも否定することも荒北はしなかった。
「ロマンチストか現実主義か分かんねーな」
ホームルームの時間を始めるチャイムが鳴る。名前は何か言おうとしたがチャイムがそれを阻み、その口は閉じてしまった。
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