塩味

06


「すまない名前。俺1人では捌き切れんのでな」

「よろしくお願いしま〜す」

悪びれる様子もなく爽やかに微笑んで見せたのは、東堂の後輩である真波。その隣では荒北がバツが悪そうに頬杖をついてそっぽを向いている。

「インターハイに向けて練習している中、選抜メンバーに補講になられては困る。昨日はフクと新開が担当だったから今日は俺が担当する番なのだ」

「名前さん顔小さいですね。目、大っきい〜」

「俺の彼女を口説くな!」

「あ、ありがとう…?」

「俺以外の男からの言葉で照れるな!」

名前は美人として学内で有名人だ。だが、その容姿を直接褒め称える者は滅多にいない。畏れ多いのもあるが、東堂がいつも側に張り付いていることも原因であることに違いなかった。

面と向かって真波からそう言われたものだから、気恥ずかしくて名前は眉を下げながらも微笑み、頬が少し紅くなった。東堂は許せなかった。

「俺ヤベェの物理なんだけどォ、理系の苗字しか教えれネェんじゃない?」

「名前を独占するのは許さん」

「じゃあなんで連れてきたんだよ馬鹿」

心底めんどくさい男だ。苛立ちが込み上げシャーペンを握る力が強まる。幾ら自分らのために集まったといえど、それを差し引いても怒鳴っていい案件だと荒北は思った。

「荒北くんの言う通りだよ。時間を決めて教科をやっていこ?」

その一言からやっと問題集のページが開かれた。名前は赤点を取らない為に取り敢えず必要な公式を、問題を交えながら数問一緒に解いていき感覚を覚えさせると、地頭自体は悪くない荒北は基礎問題であれば、感覚的に解けるようになってきた。

「とりあえず基礎が解けてたら赤点回避できるレベルのテストを作ってくると思ってる…今回の分野すごく難しいから」

「だよな。あのハゲ教師の言ってる意味分かんねェもん」

「ふふっ。それは荒北くんが寝てたからでしょ」

「アイツが寝る呪文唱えてやがんだヨ」

一通り問題をやり終え、冗談を言えるくらいには上達した。名前も荒北が思ってたより要領良く解くものだから予想してた時間よりも早く終わってしまった。横を見ると真波と東堂は古典をやり終えていないようだ。眉間に皺を寄せながら東堂は名前を見ている。名前と仲睦まじく喋る荒北に嫉妬を宿しているのを荒北は感じ取った。

「苗字が東堂みたいな面倒臭ェタイプと付き合ってるの意外だよな」

「ハハ、確かに性格真反対な気がします」

「お前ら…」

真波は最後の問題をやり終えて、荒北に賛同した。恩を仇で返してくるような仕打ち。助けを乞わんばかりに名前の方を向くと、下差し指を顎に当て、考えている素振りを見せていた。

まさか、名前もそのように思っているのか。

心臓がヒュッと縮こまる。

「意外とね、私の方が面倒な性格してるかもしれないよ。意外とね」

「ええ〜、本当ですか?どんな所?」

「内緒。真波くん、次は私が数I教えるね」


上手いこと話をはぐらかされ、渋々真波は数学の教科書を開く。歳下だからかそう言う仕草が似合うと名前は思った。可愛らしい後輩を持つ東堂が少し羨ましい。

「帰りは俺にかまってくれ」

「…」


そういう所だと自分で自覚していないのだろう。分かりやすくしょげる東堂に、普段より多めに息を吐いた。そんなところもなんだかんだ名前は嫌いではなかった。

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