星屑

12


「囚人部屋…?」

「人の家を監獄扱いしないでよ」

部屋は必要最低限のものしかなかった。シロと黒と灰色。世にいうモノトーンで統一された部屋は新開が想像していたものとは大いに予想が外れていた。

クローゼットは部屋に付いているやつを使ってるし、棚の中はまだ新品感を感じる教科書たちが綺麗に並べられている。無駄なものが置いてなく、それが余計に新開が発想してしまった囚人部屋を想起させた。

「必要最低限しか持ってきてないからね、今のところ。少し経ったら家から必要だと思うモノだけ持ってくるつもり」

「なるほどね。あ、俺も手伝うよ」

来客用に用意していた折りたたみの机の足を広げていると新開が手伝い始めた。じゃあ俺は…と石垣は買ってきた食べ物を大皿にまとめていく。福富は飲み物を注ぎ始めた。なんだろう手慣れている気がしてならない。サークル内だとこういうのは日常茶飯事なんだろうなと思えた。

「それでは…レース、お疲れ様でした」

「「乾杯!」」

それぞれ好きな飲み物を片手に紙コップを合わせた。それからは色んな話をした。彼らはインターハイでお互いの存在を知っていたこと。中学のとき福富と名乗って悪さしていた奴がいた事。これらは初耳であった。

みんなの事を深く知った一日だった。異性とはいえここまで心地の良い雰囲気は久しぶりであった。新しい環境なこともあって今やっと肩の荷が軽くなった気がした。

「佐々木さん、麦茶とって」

「はいはーい」

初めて会った時より割と気心しれた会話ができるようになった事がとても嬉しかった。名前はハンバーガーの包を広げる。そしてパンとパンの間に挟まっている忌々しいピクルスを箸で綺麗に抜き取った。

「待った、俺は見逃さへん」

そのままハンバーガーを口にしようとしたが腕を石垣に掴まれてそれは虚しくも顔の前で止まってしまう。私はハンバーガーが食べられないショックよりも、ピクルスを残した事がバレた事よりも、石垣くんに触れられた事が衝撃的だった。

「好き嫌いは良くないで。前もシイタケ器用に全部残しよったしな」

「あ、え…その…」

嗚呼、頭が回らない。いつもみたいに軽い返しをすればいいだけなのに。頭の回転だって他の人よりも速い自負があった。こんなときの為に機能すべきではないのか。

「た、食べ…マス」

私が降参したと分かると石垣くんはその手を離した。それからピクルスも食べたけど味なんて分かるわけない。

「ヒュウ!やるな!」

新開は石垣を褒めた。当の本人はその真意に気づくわけがない。名前に嫌いな食べ物を食べさせたことについて称賛されたと思ったのだ。

「無自覚は反則だよ…」

「もしかしてアレルギーやった…?顔が真っ赤…」

「ハウスダストとダニくらい…って違うから。石垣くん、私、根に持つからね」

それから顔の熱が引くまで時間がかかった。無意識の行動だったとはいえ、彼に触れられたこと位でこんなになってしまった自分に驚いた。恋愛経験は少ないとはいえこんな事で今まで舞い上がった事はなかった。

私の恋愛戦は波乱に満ちたものとなりそうな予感しかしなかった。

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