星屑

01


「東京はまるで迷路や…」

石垣光太郎は東京の都会感に圧倒されていた。そして明早大学のキャンパスの広さにも。右も左も分からない状態の中、一人彼に話しかけてきた女性がいた。

「もしかして、学生課探してたり?」

その声がして、キャンパスマップから顔を上げて彼女を見た。都会にいそうな洗練された女性と言ったところだろうか。雰囲気が柔らかくこの大学に溶け込んでいた。

「あ、はい…」

「私も今から行くところなんです。良かったら一緒に行きませんか?」

少し照れくさそうに言う彼女の姿に見惚れて返答に時間がかかったが答えは勿論イエスでしかない。

「どうして学生課探してるって分かったんですか」

「勘。まあ、ここら辺だとそれくらいしか理由が見つからないからなんだけど」

それに話しかけやすそうだったから。とナンパで声をかけたくなる要因一位であろう言葉を添えて。当たってて良かったと彼女は心の底から安堵の溜息をついていた。

(やっぱり標準語しゃべるんやな…慣れんくて緊張するわぁ…)

石垣は呑気にそんな事を考えていた。

「この時間割と皆暇してるから混むよ」

「ええ!ホンマに?そりゃ急がんと」

彼女の背中を追って小走りに駆け出した。石垣は心の中で、東京に出てきて感じていた孤独が少しだけ和らいだ。それに加えて、彼女の親切心にも感動を覚えた。孤独で冷え切っていた心に少しだけ温もりが蘇る。

「何か用事があるんですか?」

「ふふっ。君、1年でしょ。私もだよ、タメでいこうよ」

どうして分かったのだろうと彼は驚いていた。しかし彼女からすればあれだけキョロキョロと大学を見渡していたら、まだ土地勘に慣れていない1年だと憶測するのが妥当だ。頼りない自分に好意的に接してくれる。石垣には彼女が神様のように思えた。

「それと私、大学と連携してるアパート借りたから手続きしに来たの」

「!俺も。あと、履修登録ちゃんとできとるか確認しに」

「わー、それもあったね!」

彼女との会話は全然苦ではなかったし寧ろ楽しかった。ホームシックであった彼にとってはやっと肩の荷が降りた気がした。

「そうだ、名前教えてよ。私は佐々木名前。君は?」

「俺は石垣光太郎。よろしく」

「うんうん…石垣くん、ね。キャンパス一緒な訳だしまた会うかもね」

狛沢キャンパスの学生課に用があるということは必然的にそうなる。石垣は学部のオリエンテーションで彼女を見かけていないので(人数が多かったから気づいていないだけかもしれないが)学部は違うのだろうが、それでも友人と言ったら馴れ馴れしいかもしれないが近い存在ができたことを嬉しく思った。

手続きは思いの外早く終わった。彼女の言った通り、自分達の後から大勢の学生が学生課を利用しに来ていたので、それに巻き込まれていたら相当時間を浪費していたに違いない。

「ほな、佐々木さん。ありがとう」

「ふふっ。関西の人?」

「あっ、その…やっぱ、都会に馴染むには標準語の方がいいよな」

気を緩めてしまった。なるべく標準語で喋ろうと注意を払っていたのに。誤魔化すように笑っていると、彼女はこう言った。

「ううん。石垣くんはそのままでいいよ」

友好的なその笑顔に対して瞳は真剣だった。

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