星屑
07
「行くって言ったのはいいけど…」
何処に行っても人、人、人。特にスタート地点は人が多くて敵わなかった。どこで観戦するのが一番いいのか分からない。しかし、辺りを見回していると、慣れていないのを見破られてかなり通なおじさんがここなら大抵の選手が仕掛けてくるところだからと言って先程よりはマシな人混みの中、最前列を取ることができた。
「わっ、洋南が仕掛けたぞ!!」
「ありゃタイミング良すぎるわ…出遅れて他大学があとに続いた!」
白と緑を基調としたジャージが集団から抜いて出た。そのまま先頭をキープし今回のレースの優勝校となった。
明早は集団から抜けるのが遅れて余り良い結果とはならなかった。彼らをしっかりと見ることができなかった。けれど、誰もが真剣に一位を狙って走っていたことが嫌でも伝わってくる。
誰もが一生懸命な姿を見ると自分が情けなく思えてくるのが名前の癖であった。一通りやったら何でも出来た彼女はそこまで努力しなくても人より良い成績を出すことができていた。勉強もスポーツも。
しかし、一つを極めるような人と比べると当たり前だが劣っている。しかし、彼女は一つを極めるほどの情熱を何にも抱いたことが無かった。だから一番近くにいた強さを極めようと努力する象徴であった新開や福富、もとい自転車競技部が羨ましいかった。勝利を掴むために必死にペダルを漕ぐその姿が。
自分にはそんな息が上がるまで、結果を残せなくて悔し涙を流せるほどの情熱を注げるものがない。その様な劣等感を持っていた。その劣等感と自転車は彼女の中でニアイコールの存在、あるいは象徴だったのだ。ずっと強豪の選手を見ていたから。
そんな気持ちなど露知らず、レースが終わってからしばらくしてスマホの電話が鳴り出した。新開からだ。
『名前ちゃんまだ会場にいる?』
『うんいるよ、レースお疲れ様』
『ああ、ありがとな。帰りの車1人席空いてるんだけど乗って帰る?』
『いいの?部外者なのに』
『俺達しか乗らないから平気だ』
いや、平気ではないだろう。バレることはないだろうが余りその様なことはしない方がいいのは名前でも分かった。しかし、帰るのも面倒くさいと思っていた名前は乗った分の費用を払うという条件付きを出して乗せてもらうことにした。
「ありがとう…ってもう石垣くん寝てる」
「構わん。アイツは一番働いたからな」
たどり着いたときには車の中で石垣は寝てしまっていた。車内は制汗剤の匂いが漂っているが不快感はない。疲れ切って深い眠りについている彼を見るとその疲労感が伝わってきた。
「どうだった?初めての観戦」
「詳しい事はよくわからないけど、あっという間だった」
車は新開が運転していた。サラッと運転が上手い。嫌味のない爽やかイケメンにはもう脱帽するしかない。車に揺られながらしばらくすると山道のカーブで体が傾いた。
「…グガツ」
カーブの遠心力で石垣の体が名前の方に傾いた。そして肩に頭が乗っかったまでは良しとしよう。その後車は道端の樹木の根がコンクリートを持ち上げて出来た段差を乗り越えたときの小さな衝撃により、石垣は名前の膝でスースーと熟睡する形となった。
「…え?」
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