「君は歯車、誰かの運命、そして全ての始まりの音」
ジャックジャンヌ二次創作。タイトルは「はじまりの女」と読んでください。
二次創作といっても、私の中の立花継希像を具現化した立花継希の運命の話です。なのでほぼオリキャラになってるかもしれません。でもどこかで文章にしたかった。反省はしてますが後悔はしてない。
最近は立花兄妹に狂ってます。
***
もしも、この熱情が形作れるのだとしたら。
それはきっと、
「そういえば立花って、ジャンヌの扱い上手いよなぁ」
その言葉を口にしたのには特に他意はなかった。
立花継希という男は、自分と同じ演技未経験者であったことが信じられないくらいに才能のある男だ。人の想いを汲み取り支える器でありながら自分も華として輝ける稀有な存在。最初は同じスタートラインに立っていたはずなのにあっという間に彼は役者としての頂点へ駆け上がっていく。今も、そしてこれからも。だが普通なら妬み萎縮し彼に全てを押し付けてしまう場面で負けてたまるかと前を向けるのは、彼が誰にも負けないその才能をクォーツ優勝のために、それ以上に観客を楽しませるために一心を注いでいるから。同学年で隣の席のよしみでそれを知っているから。彼が主役に選ばれるのを見て、悔しく思わないわけではない。だがそれでも、それに裏打ちされる努力と気配りをしているから選ばれるのだと思えば、その悔しさは選ばれたことへの称賛と、負けられないと奮起する起爆剤に変わる。立花もそれに気がついているのか自分といると時折楽しそうに笑むことがあり、それがまた、この男と競うことを辞められない理由でもあった。そうやって競い合ってきたからこその純粋な疑問。ただ、ふと口にした疑問に目を瞬かせた麗人の姿を見て、間違えたかなと思ってしまったのは、仕方ないことだと思ってほしい。
「そうみえる?でも君だって、ジャックとしてのリードは上手いじゃないか」
「いやいやいや、俺のは役に沿ってやってるだけだって。でもお前のはなんかこう、」
そう、周りのジャックと立花のジャックは、何か違う。うんうんと唸りながら言葉を捻り出そうとする。
「こう?」
「んー・・・・・・あ、なんかリアルだよな」
ぽんと手を叩いて指を指す。リアルと鸚鵡返しする立花に頷き返す。
「お前のジャック、ほんとにリアルなんだよ。マジものの女扱ってるみたい。もしかして彼女いたりする?」
自分にしてはだいぶ的を得た発言だったように思う。だがそれは他でもない本人によって柔らかく否定された。
「あはは、そんなわけないだろ。大体こんな山奥で、公演だって山ほどあるのに恋人を作る暇があると思うかい?」
その証拠に君だっていないでしょ。くふくふ笑いながら乱雑に足を投げ出す姿は普段の佇まいからは考えられない。彼を天上人と思っている奴らはこんな姿を見ることなんてないのだろうなぁと思いながら不承不承頷いた。でも、それならば疑問が残る。
クォーツにいるということは、この学園ではすなわち演技未経験者であることを意味する。
それであるのに立花が組んだアルジャンヌ、最近では後輩のフミがそうだが、彼をエスコートする姿は女が焦がれるような完璧な立ち姿。その姿は男であっても見惚れるほどに美しく、そして自然だ。こればかりは演技でどうにかなるものとも思えない。端的にいえば、女性の扱いが物凄く上手い玄人に見えると言うことだ。なのに彼は、そんな相手はいないと笑う。
それならば、やはり演劇経験無しというのは嘘だったんだろうか?と首を捻った。
「でもそうだね」
夕暮れに沈む窓を見つめて懐かしむような表情をした立花は、ふとこちらを振り向いて笑った。舞台上でそんな役を与えられてもしないような、まっさらな郷愁をのせて。
「昔、よく・・・・・・ある女の子とその友達の男の子と一緒に演劇ごっこをしていたんだ」
「へぇ、ほんとにちっちゃい頃からやってたんだな」
「まあ、その時はあんまり役者って言うのを意識したことはないんだけどね。ただ三人で夢中になって、朝から晩まで演劇をしてたよ。とくに、その女の子が輝いていてね?男役も女役もどっちも演じるんだけど、とっても楽しそうに演じるんだ。もしかしたら、僕より演劇が好きかもしれない」
「立花より?」
素直に驚いた。だって立花は自分の才能も努力も、もちろん好き勝手やって楽しそうなのもあるけれど、なによりも演劇で人を楽しませることが好きなように見えたから。そんな立花より演劇が好きな女の子。なんだか想像はできないが、男役女役も兼ねていたというし、それなりに中性的な子なんだろう。
「僕や友達がいろんな案を出して、それに女の子が喜びながら合わせて動いて。・・・・・・とても楽しかったよ。ずっと続けばいいと思うくらいに」
「・・・・・・立花が役者を目指したのは、その子の影響なのか?」
「そうだね、そうとも言えるし、違うとも言える」
そこまで言いかけて、ふと彼の瞳に翳りが見えた。三年間隣で見てきたからこそわかるような、そんな違和感。愛しい記憶を掘り返すような優しい表情から、痛みに耐えるような顔に変わっていた。
「その子は、幼い頃から演じることが好きだった。僕が即興で演じることをして見せたら、どんなに拙くても喜んでくれた。演じることも、観客になることも、全力で楽しんでくれるような子だった。そんな子だったから、ユニヴェールに憧れを持っていてね」
「え、・・・・・・や、でもユニヴェールは」
「そう、ユニヴェールは男子校だ。だからあの子は、女ってだけでこの学校には入れない。おかしいよね。演技の上手い下手に、熱意に性別は関係ないはずなのに。あの子はあんなに、・・・・・・あんなに、演劇が好きなのに」
この学校は考え方が古すぎるといった顔は硬い。厳しい表情から絞り出すような声が出る。考えもしなかったことだった。男である自分からすれば、違和感のないこと。だがそれは、思考をやめていることと同じだと言外に言われた気がした。ぐっと握られた拳に彼が感じる理不尽が詰まっているような気がする。
「・・・・・・だから、ここにきた」
「え、」
「代わりなんて、務まるものじゃないのはわかってる。こんなことしたってあの子の嘆きは変わらない。こんなの自己満足でしかないのも全部、わかってるんだ。でも、僕にできるのは、あの子の代わりに舞台の上で最高に楽しんで、誰が見ても最高と言える舞台を見せることだけだ」
「立花、?」
「そうすればもしかしたら、ユニヴェールを共学にすることだって出来るかもしれない」
「それはっ」
あんまりにも荒唐無稽な話だ。結果を出し続けることがユニヴェールを共学にすることとどう繋がると言うんだ。それなのに、その瞳には真摯な想いだけが乗っていて。不意に、立花が役者として舞台に立ち続ける理由がわかった気がした。
「わかってるよ、無茶な話だ。でも、・・・・・・僕がユニヴェールでの話をするたびにいつもいつもいつも、嬉しそうなのに作ったような顔をする。本当は性別という変えられない壁のせいで理不尽に押しつぶされそうになっているのに、それを隠して聞いてくれる。それに気がついてからは、僕だけがただ一人、演劇の世界に身を投じるなんてそんなことはとても・・・・・・僕はあの子の、無理したような笑顔はもう、見たくないんだ」
叫ぶような決意は、きっと立花がずっと抱えてきた決意だったのだろう。その子が、立花が舞台に立つ理由の全てなのだと、理解してしまった。
それはあまりにも狂っている。命を燃やすように舞台に立ち、周りに気を配りながらも華々しく、誰かを焼き尽くさんとするばかりに咲き誇ることが全て幼い頃に仲の良かった他人のためだなんて!そんなのまるで、
「・・・・・・君達や、他の子達には馬鹿にしてるのかと言われても、仕方ないだろうね」
自分が考えていることがわかったように笑う立花の顔を見ることができなかった。ただ、理解されなくて当然だと諦めていることだけはわかった。まるで自分自身のことを嘲笑うような笑みだった。徐に立ち上がり、窓に向き直る背中を黙って見つめることしかできない。
「それでも、僕はあの子と踊るのが夢なんだ」
縋るような声だった。これが無ければ生きていけないというような。あんまり独りよがりで、あんまりにも優しい、祈り。そんなふうに感じた。どこにいてもたった一人だというような背中に、何を返せばよかったのだろうか。途端に鳴った軽快な着信音にハッとする。立花の携帯からだ。ゆっくりと携帯を見た彼の表情に驚きが混じる。やがてごめんいかなきゃと笑った我がクォーツのジャックエースは、先程とは違う清々しい微笑みを浮かべていた。
軽やかな足取りで去っていく姿を黙って見送る。見送って、肩を落とした。何も、言えなかった。言うべきだったのに言えなかった。
「なんで俺には話してくれたんだろうなぁ・・・・・・」
そりゃ、たしかに付き合いは長いけども。けれどまさか、自分の話を全くしない男が、自分からその話をするとは思わなかった。その少女へ向けられた、あまりに自分勝手で、無垢な決意。それだけが立花継希を支えている。そんなことを知ったら、自分以外のもの達はどう思うんだろうか。異常だと恐怖に震えるのか、自らを見ていなかったことに激怒するのか。それとも、その決意を無駄なことだと笑って、取り上げようとするのか。そうして演劇だけに集中させるように仕向けるのか。
けれど、もしも彼からその決意をとってしまったとしたら。彼は、いなくなってしまうのではないか。それこそまるで煙のように。思い浮かんだ考えを撒くように首を振る。勘違いであって欲しい。けれど彼には自分の願いを叶えられないのならばどこか遠く果てない場所に消えてしまう気がした。しかも、その少女を連れてともに。ーーそんな可能性を、否定しきれなくて座りこむ。それは言うことを躊躇った、自分への自責の念。
・・・・・・本当は、否定するべきだった。
他人のためだけに一生を捧げて舞台の上で踊り続けるなんて、そんなのは間違っていると、言うべきだった。
だけど。
『あの子には、笑っていてほしいから』
その言葉は、覚悟は、純粋な願いは。
ただ、美しいと思った。
そんな思いが消えてくれなくて、ついぼやく。
「・・・・・・アレに勝つのは、骨が折れそうだなぁ」
『継希にぃ、すごいね!』
懐かしい声が響く。蜂蜜のように甘くて金糸雀のように可愛らしい声。くりくりの琥珀の瞳に、山桜の色をした綺麗な髪。愛嬌のある笑顔と、華奢な体躯。小さな仄赤い唇から出る言葉全てが特別に思えた。
小さな僕の、宝物。
『お芝居ってとっても面白いね、だって優しい継希にぃが、あんなに怖い人になっちゃうんだもん』
その日はあの子が何をしても泣き止まなかった日だった。どうして泣いていたのかは思い出せないけれど。とにかくどんなことをしても泣き止んでくれなくて、そうだ。だからお芝居をして見せたんだ。泣き止まないと鬼が来るよって、鬼役で。気がつけばそれに魅入られていたあの子を、妹を見て、うまくいったと悟った。その時にパッと顔を上げて、琥珀色をきらきら輝かせて笑ったんだ。
『わたし、継希にぃのお芝居大好き!継希にぃのお芝居、もっと見たいな!いつか、わたしもやってみたい!そしたら一緒にお芝居ごっこ、してくれる?』
あの日から、全てが始まった。
「希佐?何かあったの?」
稽古場を出てすぐに携帯を開く。妹からの電話だ。すぐさまかけ直すと、継希にぃ!と弾けるような少女の声が聞こえて、ついつい唇を緩ませる。それに答える自分の声がどこか甘ったるいものに聞こえて、苦笑してしまった。
「うん、うん・・・・・・あはは、大丈夫だよ。希佐の方こそ元気?無理してない?」
母はいない。父は仕事で忙しく家には帰ってこない。しかも借金すら抱えている。そんな家に一人、残されている。その事実に思わずぐっと拳を握った。それでも愛しい妹は、大丈夫だよと笑ってみせる。その言葉の裏に、隠しきれない寂しさを感じて、やるせない気持ちになった。
「そう、よかった。うん?」
よくないだろう。全然良くない。それでも、ここで問い詰めれば妹の気遣いを無駄にすることになってしまう。だから見て見ぬ振りをするしかなかった。自分の不甲斐なさに押しつぶされそうになりながらも、希佐の言葉を聞く。
「明日、これそう?そっか・・・・・・そっか。嬉しいな、希佐が見にきてくれるなんて。・・・・・・本当だよ。僕が君に嘘ついたことないだろ」
これは嘘ではない。ほんとに?と聞いてくる妹に笑いながら、なけなしの本心を告げる。
「明日、楽しみに待っていて。最高の舞台を見せてあげる。そして必ず、君を見つけるよ」
私も継希にぃを観に行くね!と明るい声。耳に直接入り込んでくるその声に、ゆるゆると顔を緩ませた。自分でも表情が緩みきっているのがわかる。
「あはは、うん。それじゃあまた明日ね」
またね、と軽やかな妹の返事を最後に電話を切る。ああだめだ。本当は、こんな顔をするべきじゃない。たった一人の妹に中学を出たら働くとまで言わせているのに、僕だけがあの日夢見た舞台の上にいるだなんて。だからあの日決めたんじゃないか。ならそれに集中するべきだ。なのにどうしてか、笑みがどうしても消えてくれない。明日、妹が観に来る。僕の演劇を。そのことが今までの功績より、なによりも誇らしく思えた。
愛しい妹。世界でたった一人、踊り続けていたいと思った小さなお姫様。自分の頭を片手で押さえ、くしゃりと子供のように微笑む。
「・・・・・・頑張るよ、君のために」
『わたしね!継希にぃと創ちゃんとずっとお芝居ごっこしていたいなぁ』
金糸雀のような愛らしい声が脳内に囁く。それはどんなアルジャンヌからの告白より、誰かから送られる美しく並べた言葉より、史上の愛の言葉のように聞こえた。そうだ、だからこそ。歩みを止めるわけにはいかない。たとえ誰かに否定されても、後ろ指をさされても。それでも勝利を掴み続けてみせる。
そして必ず。
あの日の夢を、現実にする。
小さな妹の笑顔を思い浮かべて、小さく拳を握った。
もしも、この熱情を、狂わされるような激情を形作れるのだとしたら。それはきっと、たった一人の人になるのだと思う。
あまりに小さくて、守りたくなるような幼い少女の形を。
立花継希の運命は、あの日の妹の形をしている。
あの日から、僕の世界は君が全て
ここから下は作者の妄言という名の言い訳
タイトルのファムファタールは、三つあるうちの運命の女の意味を取ってください。
(立花希佐の運命はきっとこの先を生きる誰かなのだろうけど、立花継希の運命は只管に自分を慕い貴方の演劇が好きだと笑ったであろう妹だったんじゃないかなぁという妄言)
(立花継希はどうして演劇を始めたのかな?という疑問から希佐ちゃんを笑わせるためにやって見せた演技からなのかなというのがとても熱かったのでそこらへんは捏造)
(モブさんは立花継希世代の組長です。誰もが立花継希の才能に押しつぶされる中、立花継希に喰らい付いていった男。それなりに立花継希も気を許していました。エースと組長は別々だったのかなーという妄想でできたモブです)
(継希さんがどんな人かはわからないけどゲームやってるとあまり自分のことを語らないのに妹とのお芝居ごっこをしていたことは話す・アルジャンヌとして演じた時は希佐ちゃんを思い浮かべてやるっていうところとかその他諸々を見てTwitterやジャックジャンヌ仲間とのやり取りで「こいつ確実に希佐ちゃんのこと世界で一番お姫様と思ってるって!」と確信に近い妄言をしています。いや確実にシスコン)