銀河鉄道の虎杖くん



宇宙を走る鉄道でさまざまな人々を送り出す虎杖悠仁の話。
プロット・ネタ。
続かないと思うが、供養のため
誰か描いて欲しい
腐術廻戦
虎杖愛され
夏虎

***

夏の大三角の近く、星の身投げが毎秒行われる空の上では、二度と流れることのない壊れたレコードの上に置いてきたような死者のかなしさが漂っているらしい。
死者のかなしみ。過去にはかなしさは愛しさと読まれることもあったという。さまざまな記憶を持ったそれはもう、呼吸を止めてしまったのだから、動いてはならないのだけど。
置き去りにしてしまった恨みが、後悔が、願いが。
物言わぬ記録になってしまう前に、死者は列車に乗る。
その列車の名は、銀河鉄道。
心残りは、なんですか

虎杖悠仁はふと、汽笛の音で目を覚ました。
うっすらと目を開けると、キラキラしているのに柔らかな光が差し込んでくる。質の良いベルベットの生地をしたふかふかのクロスシート。熱が届かないような高い場所にいるからなのか、寒暖調節用にふわふわのブランケットが一枚手すりにかけられている。あたりを見渡すと誰もいない。それどころか使われた形跡すらないまっさらな暖かい色調の車内には、どこか懐かしさと寂しさが付き纏っていた。目を逆方向に向ければ、車窓の外はまっくらだった。いや、実際は真っ暗ではない。黒く暗いキャンバスに、沢山の光を集めたような星屑が散りばめられている。こつんと頭をぶつけると、美しいびいどろでできた色鮮やかな魚が、まるで母なる海を泳ぐかのように並走しているのが見えた。ああ、奥には炎を纏った鳥が秤のような何かを運んでいる。あれは、酸素。コウノトリかのように、我々が呼吸するには欠かせない酸素を大事に抱えて、そうしてばら撒いていくのだ。
まるでファンタジー。まるで夢の中のような幻想的な出来事。しかし、これは夢ではない。少なくとも彼女にとっては、現実の出来事である。
星が降り注ぐ光の庭、沢山の物質が纏わりつくようにできた球体、鯨の骨に花が咲くような長く怠惰な時の流れが延々続く宇宙。忘れることなどできやしない。誰もその美しくて虚しい空を記録にすることができない。我々人類が一生かけたって全てわかるかなど不明な、壮大で莫大な記憶を持つ原初の母。そんな母なる宇宙を泳ぎ、飛ぶ幻想的な生き物たち。
その中を、この列車は走っている。
主人は悠仁一人。何度か誰か人がいないか見に行ったことがあるのだけど、特に何か人がいるわけではなかった。いや、二足歩行の紳士猫とか、黒ののっぺらぼうマネキンとか、あと海坊主みたいな黒い何かとか、絵本にあるような「へんないきもの」はいるけれど、人と形容されるものがいない。それがこの列車の特徴だった。
ただ、時々ではあるが。
透明で儚い人々が乗ってくる時がある。
人々は、色々な過去を抱えていた。恨みがあるもの、怒りがあるもの、喜びがあるけれど心残りがあるもの、願いを叶えられなかったもの、満たされなかったもの。どれもこれも、叶わなかった願いがある人々ばかり。そんな年代も人種も違う人々と話をして、彼らが降りていくのを見送る。そうして初めて、彼らは南十字星(サザンクロス)の御許にいけるのだ。
宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」。その世界観はほぼほぼ間違えてなどいないのだ、と悠仁は幼いながらに悟った。今日も明日も明後日も、それこそくたくたになって眠る日だって、悠仁はこの銀河鉄道に乗る。
誰かの願いを聞くため。
誰かの思いを忘れないため。
誰かの心を、覚えておくために。
たくさんの自然の音をかき集めたようなカルテットの汽笛が鳴り止んで、今日も誰かがやってきた音がする。そっと目を開けて伺うとこの膨大な宇宙に少し戸惑っているようであり、困った顔をしていた。
こっちだよ、と意識して大きな声で声をかけたら、恐る恐るというふうにやってきたので挨拶をする。

「こんにちは」

「、こんにちは?」

「綺麗な黒髪のお兄さん、心残りはなんですか」

そうして首を傾げると、黒の制服が似合う青年は小さく息を呑んだ。

**

黒が似合う彼は夏油傑と名乗った。
何か難しい仕事についているようで、その反動で運悪く、こちらにきてしまったらしい。「いや、おそらく死にかけなんだろう」とぎこちなく笑う青年は、自分が死んでしまったことが受け入れられないのだろうなと思った。
「ねぇ、悠仁くんはどうしてここにいるのかな。死んでしまったと言ってたけれど、悠仁くんもそうなのかい?」
「んや、おれはちょっと違うかな」
「?」
悠仁は夏油に語って聞かせた。気がついたらこういう夢を見ることを。いや、正確には夢であるのか現実であるのか見当もつかないが、この宇宙の中を走っている電車に乗って終点までを見届けることが目覚める条件なこと。乗ってくるのは大概が死者であったり、迷い込んでしまった人であったりする。クリスタルみたいな花火が外で上がっているのがわかった。夏油は逐一驚いていたがきっと星がぶつかり合っているのだろう、と悠仁が伝えると信じられないものを見る顔をしていたが、なんとなくこの出来事がただの夢ではないことに気がついたらしい。まさか死後の世界なんてあるのか?本当に?これが知れたら呪術師がひっくり返るとか、なんとか言っていたけれど悠仁には難しいことはわからない。
「まあ、ここは夢の中かもしれんし。もしかしたらお兄さんも迷い込んじゃっただけで死んでないかもよ?」
「・・・・・・迷い込んだ、か」
「悩んでる人とか、あと心に靄がかかってる人とかが割とここにきやすくてさ。たまに会うんだ、そういう人」
結構前にね、ほんとに死にかけみたいな状態の女の人を送り返したことあるし。夫の人と息子さんに会えたかなぁ。あ、あとあなたと同じ制服の男の人も送り返したりしたよ、とぼやく。夏油は少しだけなんとも言えない顔をしていたが、やがて小さく頷いた。
「お兄さんも、迷ってるの?」
「・・・・・・それは、そうかも知れない。でも、子供にする話ではないよ」
「んー、難しい話?」
「どうかなぁ」
はぐらかしたいようだったが、顔に染み付いたクマや痛々しげな笑顔をみれば「厳しい世界の人なんだろう」と予想はつく。とっても、苦しそうな人。
悠仁の元には、たくさんの人々が訪れる。その中には今にも死んでしまいそうな人や、すぐにでも人倫を踏み外して行ってしまいそうな顔をした人もいて、夏油はきっとその類の人だ。悠仁には難しいことはよくわからない。わからないが、この気が遠くなるような宇宙の流れの中では、何もかもちっぽけに思えるはずだから。
だから、口に出していた。
「話してみたら」
「!」
「夢だと思って、全部吐き出してしちゃえばいいよ。誰にも何も言わんからさ」
外で、ダイヤモンドダストでできた鯨が跳ねている。それを見ながら、にかりと笑いかければ、夏油の喉が震えて、小さく俯いてから、話が始まった。
それは、重たく苦しい話だった。
守るべきと思っていたものを本当に守るべきなのかわからなくなってしまったと、夏油はいう。
「自分の力を、弱い誰かのために使うべきだと思っていた。だが、あいつらは、私たちが戦うべきものを生み出していく悪き存在だと、思ってしまって」
「うん」
「そんなことはなくて、そんなことを考えてはいけないのに、考えてしまった。それを全て無くせば、それは全く現れないのではないか、と」
「それで」
「同じ人間ではなく、猿のように、見えている」
まあ、本当はたくさん難しい言葉はあったのだが。
要約するとそんな感じ。
重い。何がって、色々。その年でそんな覚悟決めてるやついる?いないよ。悠仁はこのお兄さんに感心していた。すごい。めちゃくちゃ頑張ってるんじゃないかこの人。自分が苦しんでいることを誰にも相談せず、誰にも頼れず、たった一人ぼっちで、ずっとずっと考え続けてきたのだ。
「こういうものだから仕方ない」と諦めて仕舞えば良いことを、この人は諦められないんだろう。
だから、その言葉が出てきたのは仕方ないことだと思ってほしい。
「お兄さんは、頑張ったんだね」
「は、?」
「頑張ってるよ。だって、その考えに至るまで、たくさん考えたんでしょう?だから苦しいんだ。諦めちゃえばいいのに、期待することを諦められないから。だから、変わってほしいと思ってる。でもそんな簡単に変わらないから、根本から変えなきゃと思ってる」
「違う?」
「それは」
「優しいね。お兄さん、真面目なんだね」
その言葉に、夏油はそっと息を呑んだ。
「真面目な人はいつもそう。誰かを取りこぼしたくなくてたくさん考えて、たくさん悩む。誰かにいえば良いのに、結局は自分でなんとかしようとするから」
「・・・・・・」
「でもさ、おれは馬鹿だしちっちゃいから、たいしたこと言えないけど」

いいんじゃない、嫌いなら嫌いで。変えたいとか、変えなきゃとか、思わなくたって。
だって仕方ないじゃん。嫌いなものは嫌いなんだから。でも、あなたが大切な人を守りたいなら、全てを消すなんてことより、守る方法を考えるべきなんじゃないの。
あなたが助けたいものを助けるために、その仕事を続ける道もありなんだと思うよ。

汽笛が、鳴り終わった。着いた駅は、南十字ではない。

「北極星だ」
「え?」
「ここに着くとね、道標があるから帰れるよ」
じゃあね、と手を振ると、夏油の体が引き寄せられるように立ち上がった。

「!?」
「もう来ちゃダメだよ。死んだ時に来てね」
「っ悠仁くん!」
「ん?」

何を言っているかはわからなかった。汽笛が鳴り始める。その間に、夏油は駅を降りてしまった。


**

それから、悠仁はたくさんの人々を送り出し続けた。
幼かった頃から十分身長も伸び、年齢も高くなった。それでも、悠仁は銀河鉄道に乗る。死者の終わりを見届ける。


けれど、その日常が乱されるのも。

たくさんの仲間と出会うのも。

かつて出会った「お兄さん」ともう一度、再開するのも。

お兄さんに、夏油傑に告白されることも。


また、この列車に乗った時にでも話すとしよう。


プロットのまま出してます。
ネタです。続けたり清書するとしたら夏虎になる。
虎杖愛されがベースです。