恋となるにはまだ遠く
「数時間後になるまでに、顔の赤みは取らないと」
相互さんに送ったクリスマスプレゼントSSを許可を取って再掲します。
夜桜さんちの長男夢です!この作品大好きなんですけどいまいち作品数がなくて悲しい。
もっと増えていいと思うんだけどなぁ。
ただ初書きでこうだったらいいなという妄想を詰め込んだので苦手な人はお気をつけて
***
待っていると言えば、お前はきてくれるだろうか。
犬を飼っている。
可愛い犬だ、少しだけむくむくしていて生意気なのが玉に瑕だけど。それでも可愛いことには変わらないので、いつも許してしまうような犬がいる。
散歩が好きなこいつは、暇さえあればリードを持ってきていこういこうと袖を引っ張ってくるので困るが、まあ可愛いので。仕方ないなぁと思ってもないくせに笑いながら、今日も散歩へと行くのだ。
しかしまあ、そんなにうまくいかないのが世の常である。
「……何やってんの?」
「あぁ、おはよう」
「おはよ、じゃないわ。何してんのよ凶一郎」
ため息をつきながら壁にもたれかかり犬をさがらせる。生意気ではあるが賢い子なので、不満そうにしながらも凶一郎であることに気がついた犬はすぐに引っ込んでいった。まあ仕方ないね、あいつは怖いから。
はぁと息を吐いて睨みつけるように見据えるとその油断ならない、というか何考えてんだかわからない飄々とした顔が胡散臭いほどにこやかになる。
「話が早くて助かるよ」
「うちなんですけどここ」
「いいじゃないか、どうせ暇だろう?」
お前がきたからだよと内心毒づきながら思いを馳せる。学生時代からの旧知の仲であるこいつは、人の用事なんて全く考えないような糞野郎である。ある筋では女に人気らしいが、同時にとんでもなく嫌われている。わからなくもない。私もこいつが苦手だ。なんでこいつが私に絡むのかわからないくらいには。私への嫌がらせなのか?それとも、私の気持ちがバレているのか。
ずきずき痛む米神を抑えて、要件はと聞く。こいつ用は特にないとかいったらぶっ飛ばすからなと思いながら。
しかし、凶一郎は意外にも黙り込んでしまった。
「……」
「なによ」
「……」
「なんかいいなさいよ、何のようだって聞いてんのよこっちは」
「……」
「怖い!しゃべれよなんか!」
おかしい、何でこの男黙ってるんだろう。いつもなら慇懃無礼で傲慢なほどのおねだりをしてくるわ嫌がらせをしてくるわその嫌がらせが精密すぎていやらしいわ、ともかく人間としてやばいやつだというのに。
なのに今日ときたらどうだ。まるでどこか緊張でもしているかのように黙り込んで、なんだかそわそわした空気を感じる。口を開きかけてやめて、またもごついて手を握り込む。そんな少年のような様子を、怪訝に思って首を傾げた。こいつのこんな様子、なかなかみられるもんじゃないから調子が狂う。そうは思っても、熱でもあるんじゃないかと心配になった。
「なに、なんかあった?」
そう聞いた声が予想以上に優しくなってしまって内心舌打ちをする。まずい。揶揄われるやつだこれ。この男にこんなに無防備に開くような声をしたことがなかったから、正直どうしたらいいかわからない。
それでも、何かあるのなら同期のよしみで助けてやってもいいと思うくらいには、こいつのことを思っているのだ。それ以外の感情もあるなんて悟らせたくないから、絶対言ってやりたくないけど。
それでも、少し息を飲んだ彼に流石に気まずくなって目を逸らす。別に付き合ってるわけでもないのに、なんだろうこの羞恥心。話が長くなるなら上がってけば?と掛けた声はぶっきらぼうで、意識を逸らそうとしているのが丸わかりだ。あーくそ、何で私がこいつにこんな恥ずかしくならなきゃいけないんだ。
そう踵を返すと、くん、と手が引かれる感覚がする。振り向かなくてもわかる。だって私の手を引ける距離にいるのなんてこいつしかいないから。
「凶一郎?」
それでも、彼がこんなに無口であまつさえ触れてくるなど。今までなかった事態にどうしようもなく動揺した。
「どうしたの、ほんとに」
振り向きざまに目を合わせると、どこか甘い静謐の間に、小さく声が聞こえた。
「……ン」
「え?」
「イルミネーション、見にこないか」
イルミネーション。ぽかんと惚けたように呆然とする自分は、きっと馬鹿みたいに無防備だったことだろう。思わずその憎らしい人を食ったような笑みを浮かべる彼を凝視すれば、どこか気まずそうで、緊張したような、でも取り繕ったように笑みだけは変わらなかった。
「ほら、うちでやってる」
「……、あぁ、あれね」
「六美が、今年お前を呼ばないかと聞いてきてね。あとお前がくると嫌五が喜ぶ」
それ以外にもぽんぽんと言葉が出てきて、誤魔化すような言葉をつらつらと重ねていく。こんなこの男初めてで、どんな顔をすればいいのかわからない。けれど、家族のために、彼が自分の家までやってきたのは間違いなさそうだ。
あぁそっか。そう納得して、それでも少しだけ落胆する自分が嫌になる。嫌五くんや六美ちゃんに会えるのは楽しみだな、そう無理やり思考を切り替えて、「いいよ、いく」と笑顔で返す。
しかし、彼の顔は優れないまま。
「凶一郎、ほんと今日変なの」
「うるさい」
「ひど」
ケラケラ笑いながら落胆を塗り隠すために言葉を重ねた。楽しみだなぁと思ったのは嘘ではないから、重ねるように言葉を連ねる。そうすれば話はそれだけだと言って帰るだろうと思ったから。
「まだ用件はある」
「ん?なに、仕事の話はやだよ?」
だから用事があると言われて、全く用意もしていないままに受け取ってしまったのが悪かった。
「……俺も」
「ぇ」
「俺も、お前と過ごしたいから、誘いに来た」
そうして屈んで、小さく頬にキスを落とされた。ちゅ、という可愛いリップ音がやけに大きく響いていた。
「それだけだ、それじゃあ今日の夜に夜桜家で」
「あ、ぁ、うん」
「……楽しみにしてる」
「え、」
「また」
「、ま、またあとで」
そういうと凶一郎は足早に私の家を後にした。がちゃんといつもの彼では考えられないくらい乱暴に閉められた扉を信じられないものを見るような瞳で見つめる。
まさか、それを言うためだけに?
シスコンで慇懃無礼で、人を食ったように会話する胡散臭い男が?
私なんかと、一緒にいたい、と?
「……はぁぁぁぁぁ」
ずるくない?あれ、ずるくない?
駆け寄ってきた犬に顔を埋めて、うめき声を上げる。きっと顔は真っ赤になっていることだろう。
あぁ、この野郎。今日、どんな顔で会えばいいのだ!
そんなことを思ってしまうのに浮き足立ってしまう自分が、一番嫌だった。