蛍ちゃん成り代わりがディルックに囲われそうになってる話(表)
gnsn夢・蛍成り代わり
いきなりゲーム世界に連れ込まれて自分ではない誰かを演じることになりSAN値やばい蛍ちゃん成り代わりと、画面の向こうでしか触れられなかった存在が目の前にいることで内心狂喜乱舞しているディルックの旦那(成り代わり主のテイワット出身)
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人間、この何かをするには限りなく短い余生でも、必ず目から鱗も落ちるような驚きが襲いかかってくることがあるものだと私は思っている。
現代から遡る遥か昔。文明が生まれた時代から始まる人間の発展は凄まじく、真っ暗な視界を照らすようにたくさんの事実が発見されてきた。それにより常識が反転することなどよくある話。しかし、それでもわかっていないことの方が多い。私たち人間というのは、人類という生き物はそういうものである。
話が逸れたが、ともかく理解できない驚きというのは人生において何かしらあるものなのだ。
だが、そうはいっても。
これはないだろと思うようなことが、今私の前に現れているというのは、些か問題があると思うし、神様というやつはほとほと私のことが嫌いなのかもしれない。
蛍成り代わりは夢の中で生きている
出過ぎた夢は、現実にならないほうがいい。
そのはずなのに、どうして私は、その「出過ぎた夢」を現実にしてしまっているのだろう。
「旅人?大丈夫か?」
目の前にいる少女めいた生き物は、パイモン。
彼女は心配そうな顔で、こちらを覗き込んでくる。悲鳴をあげそうな心を押し殺して、有無を言わせぬ微笑みを浮かべた。
「・・・・・・なんでもないよ、大丈夫」
そして私は、蛍。
否、蛍という、物語の舞台装置であり主人公の一人の、出来損ない。
正直私の人生は、特筆すべきことなどないほどに凡庸な人生だったと思う。
子供の頃は、きっと素敵でカッコいい大人に。と思っていた。けれど現実はそう上手くはいかないというのが普通で、よくある話。例に漏れず私も、時がたち大人になって成すのは絶対になりたくないと思っていたうだつの上がらないOLとして、社会の歯車になる日々。悲しいことに、これが現実だったのだ。私は特殊な能力も誰かに愛されるような愛嬌も、成り上がれるような気力もなかったのだから。
万が一にも「何か語れ」と言われたら、強いていうのなら、「原神」というゲームにハマっていた。それこそ、夢小説やただの二次創作を読み漁ってゲームをやり込むくらいに、ハマっていた。
これくらいのことだろう。
でもまさか、そんなゲームの中に入り込んでしまうなんて。
しかもこれから先たくさんの出会いを繰り返し戦いに挑むことになる主人公の体に「私」という凡庸な女の精神が入り込んでしまうなんて。
最初は、よかった。
いつものように眠って、目が覚めたら好きなゲームの世界。しかもかなり可愛がっていて、好きだった主人公ちゃんに成り代わる。夢小説を嗜んでいた者なら一度は憧れることもあるだろう光景。自然が綺麗で、のびのびとした動物たち。活気あふれる街並み。美味しいご飯。たくさんの人々に触れ合うことができる。自分の力で世界を切り開いて、戦って、戦って、戦って。
でも、それだけだ。
次第に、モンスターに出くわすたび、沢山の事件に巻き込まれるたび、神様と呼ばれる彼らと戦うたび。何度も何度も足が震えた。できることなら逃げ出したかった。これが夢であるなら早く覚めて欲しいと願った。大きなモンスターたちと戦うたびに、死ぬような思いもした。任務や依頼をこなすたび、「ああ私、ここで死んでしまうのかな」と考えて恐ろしくなった。関わって交わっていく人々に「旅人」と感謝をされるたび、「私はそんな名前じゃない!」と叫び出したくなった。
そんな日々をなんとか生きていく日々の中不意に、思ったのだ。
「私は、いつまでこの夢を見続けているのだろう」
最初はよかった。だって、これはいつか覚める夢だと思っていたから。長い夢だけれど、いつかは終わるものだと信じていたから。
でも、何をしようとこの夢から覚めることはなく。
この自由で広い土地で目が覚めるたび思うのだ。「あぁまた、現実に戻っていなかった」と。
あの日たしかに自分のベッドで眠って、起きたらこの世界だった。たしかにプレイヤーの分身ではあるけれど確実に自分ではない「主人公」になっていて、その名前で、その性格で、その目的でしか私は動くことができない。じゃあ、本当の私は?うだつの上がらないOLとして生きていた私は一体、どこにいってしまったというのか。
この姿も私のものじゃない。名前も、性格も、この力も信頼も周りの目も何もかも私のものじゃない。
名前だって、私のものではない!
全部全部全部、蛍ちゃんが、「主人公」が受け取るべきものだった。私はそれを奪った。
そして、もう二度とあのつまらない安穏とした私の現実には、帰れないかもしれない。
そんな、本来なら一番最初に、いちはやく気づくべきことに気がついて。
私は、喉を締めてしまいたくなるほどに絶望した。
出過ぎた夢なんて、現実にならないほうがいい。
私はこの言葉の意味を、まざまざと思い知らされたのだ。
**
「旅人」
暖かい熱量に揺られながら誰かが呼ぶ声に一気に意識が覚醒した。うっすらと目を開けると、澱みのない紅蓮の髪をした大きな男の人が私を覗き込んでいた。あ、と掠れた声を出す。呆れたような、けれどどこか見守るような目をしている彼・・・・・・ディルックさんは、その静かに燃えるような瞳でじっと見つめている。寄る方のない虚な瞳をした私が、夕暮れの色が濃い赤の瞳に映っていた。
「ディルック、さ、」
「すまない。そろそろ起きてくれ。開店しなければいけないんだ」
エンゼルズシェアに依頼品を渡しにきたついででいろいろ話をしていたら、いつのまにか眠ってしまっていたらしい。ふ、と時計に目をやれば、たしかにもう開店時間であった。そんな時間まで誰かの前で眠っていたことや、パイモンがいないことに驚いて慌てた。
「す、みません。パイモンは?」
「あれか。あれは今少し、席を外してもらった。
「!」
「・・・・・・あぁ、心配しなくても。ここの外で待ってもらっているだけだ。他意はない」
「そう、ですか」
「それより、離してもらえないか?」
「え、」
目を瞬かせて彼の言葉を逡巡させていると、カウンターに投げ出された手の下が暖かいことに気がついた。目を見張ると、もぞりと動いた暖かい何かが、私の掌を抜けていくのがわかる。あ、と思わず声を出した私にディルックさんは困ったような顔をしていた。
どうやら、ディルックさんの手に重ねて握るような形で、私の手を置いていたらしい。つまり、彼の手はずっと、私が独占して離さなかったと、いうわけで。
「ーーす、すみませんでした!」
「いや、・・・・・・気にしなくていい」
「でも、準備もできなかったでしょうし、」
決まり悪げな顔をしているディルックさんに真っ青になる。どうしよう、迷惑をかけてしまった。たとえこのハリボテの姿が壊れてしまっても、この人にだけは嫌われたくないのに。
ディルックさんは、私が「私」であったときの最推しであり、そして今は私が「主人公の蛍」らしくない姿を見せても許してくれる人だった。何を考えているのかわからない人なんて言われるが、ディルックさんはそんなものではないと思う。私が震えて硬直した時には庇うように歩いてくれた。旅人としての仮面を付けられなくなった時には人々から私を隠してくれた。情けない姿を見せたってこうして何も言わないで、ただ見つめてくれる。それだけと言われればそれまでだけれど、私を私でいても気にしないでくれる存在はとてもありがたくてつい、気を許してしまうことが多い。
わかってるのだ。彼が求めているのは「彼の悩みを解決した旅人」で、「栄誉騎士で友人の旅人」が困っていたから庇ってくれたというだけのことだと。けれど、「蛍ではないただの一般人の私」からしたら、旅人じゃなくてもいいと言われているような気がしてしまった。そんなはずないのに。
だから、「旅人の蛍」ではない「私自身」の言動のせいで彼が離れていくことは、とても苦しい。
ごめんなさいと譫言のように呟き続ける私を何をいうこともなく見つめたディルックさんは、やがて小さなため息を吐いた。視界の端で自分の金糸の髪がびくりと揺れる。この星屑を集めたような金髪にも、もうずいぶん慣れてしまったと気がついて、また沈んだ。俯きこう垂れる私に、彼はその大きな手を向ける。手袋越しでもわかるほど暖かくて、安心する手が頭に乗せられて、小さく揺れた。
「本当にいいんだ」
「でも、」
「君が少しでも休めるなら。僕はどんなことをされても構わない」
お世辞でも、それが私自身に向けられたものでなくても。そんなふうに言ってくれたということがとても嬉しかった。なんでだか、涙が出そうだと思った。けれど泣くことは許されない。だって私は「蛍」だから。小さく頭を振って、勢いよく立ち上がる。彼の手を振り払うことになってしまったことだけは申し訳ないけれど、でも仕方ないと思って欲しい。
「ありがとう、ございます。でも、これ以上迷惑かけるわけにはいかないので。本当にすみませんでした。今度からは気をつけます」
疲れてるのかも、ちゃんと寝ないとなぁと茶化す。ぽりぽり頭をかいてにへらと笑って彼の様子を盗み見た。すんで、息を呑む。
オレンジの混ざった赤い瞳が、不自然なまでの熱量を持ってそこにあった。命を燃やすような輝きと、じっとりとこちらを焦がす甘さの混じった瞳に絡め取られて動けない。極上の獲物を前にした肉食獣のような顔をした男が、そこにいた。ちりちりとこちらを焼き尽くす炎が、にじり寄っているような。
なんで、そんな顔。きゅうと心臓が悲鳴をあげる。食べられてしまうと思った。何故かは、わからない。けれど酸素さえ奪うような威圧的なのに蕩けるような眼差しに息すらできない。
彼を氷の入れすぎた極上の酒と言ったのは誰だったか。不意に、そんなことを思い出した。でもその言葉より、冷たい熱情という言葉の方が似合う気がする。普段と雰囲気は全く変わらないのに、目が。その瞳が、私を捉えて離さないのだ。
はく、と空気を飲んだ私に、ディルックさんは微笑んだ。甘く弾けるような、情熱的な顔をしていた。そっとその節の目立つ剣を握る男の人の手がこちらに伸ばされる。その蜘蛛のような手からは抗うことさえ許されない気がした。いけない。毅然とした態度を取らないといけないのに。それなのに、私は狼狽えてしまって、どうすればいいのかわからずにいた。ここで蛍としての態度を取ったら、何故かここから出られないような気がして。ディルックさんの手が小さく私の髪を払って、肌に触れようとするのにきゅっと目を瞑る。何故か、見てはいけないと思った。
「おーい旅人ー!大丈夫かぁ?」
パイモンの明るく可愛らしい声にパッと目を開けると同時に、かちゃりと耳元で音がした。すっと離れていく彼の手を呆然と見て、慌てて耳に触る。しゃらしゃらとした手触りがした。何か、とてもいい素材でできていそうなそれに目を白黒させる。耳飾り?と口を動かすと、彼は口元に笑みを浮かべて頷いた。
「君に似合うと思ったんだが、想像以上だな」
「はい、?って、あ、あの、この耳飾りって」
「いい素材が手に入ってな。せっかく作ったから、もし君が嫌でなければもらって欲しい」
上手い言い方だ。その言い方はずるい。受け取らない方が失礼だと感じるような言葉にたじろいでしまう。いいのか。これ。困ったように目線を彷徨わせる私と食い入るように見つめるディルックさん。そして外からはパイモンの私を呼ぶ声。呼んでるから早く行かなきゃ。でも、これを受け取っていいのかわからない。きっと今の私は、躊躇しておろおろとした情けない姿を晒しているだろう。蛍らしくない姿であることは、よくわかっていた。
くす、と空気を震わすような音が聞こえる。彼が、おかしそうに笑っていた。先程の獰猛な表情とは違う、彫刻のように美しい笑みだった。
「君に、似合うと思った。せめてものお守りだ」
「なん、の」
「どんな辛い旅路でも、君を守ってくれるように」
あとはまあ、牽制みたいなものだ。笑いながらに呟いた言葉が、よくわからなかったけれど。自分のために作ってくれて、それを似合うと言ってくれたこと。それが何だか嬉しくて、心に熱が灯ったような気がした。
「ほら、早くいくといい。・・・・・・あぁ、そうだ。次も、それをつけてきてくれると嬉しい」
「!は、はい。あの、ありがとうございます。また、モンドに寄ったら一番にここにきますね」
ぺこりと頭を下げて慌てて外への道を急ぐ私は、彼のあの瞳をすっかり忘れていた。
絡め取られてそのまま、ぺろりと食べられてしまいそうな瞳の意味を、彼がこの耳飾りを送ってくれた意味を、彼がどうして私に優しくしてくれるのかを。
私はまだ、知らないのだ。
「あれっ旅人!その耳飾り綺麗だな!」
「あ、ありがとう。ディルックさんに貰ったんだ」
「やっぱりか!?」
「え?」
「見た瞬間、あいつっぽいなって思ったんだよな。それに」
「それに?」
「その耳飾りについた石、ディルックの目の色と一緒だもん」
