つづます


「なあ真澄、やろっか」

 嫌いだ。
 あいつ意外、全部、全部。
 特にこいつ。
 同室になんかならなきゃよかった。あいつと同じ部屋じゃなくても、咲也でも、他のやつでも、とにかくこいつと同じ部屋にならなきゃよかった。
 一緒じゃなかったら、こんなことしないで済んだのに……!

「へえ、そんな態度取るんだ」

 気持ち悪い。あいつの気分次第で、突然始まる。いつものように、笑って。
 笑っているけど、笑っていない。目は全く笑っていない。
 何も言わないのを良いことにこいつは俺の顎を掴み、口と口を重ねた。たまらずすぐに振り払う。
そして皮膚が抉れるくらい袖で拭きまくった。

「あーひっでえの」
「……気持ち悪い!」

 カントクにもしたことがないのに、なんでこいつと、何度も何度も!
 がつん。
 鈍い音がした。頭が揺れる。
 綴が、俺の右頬を殴った。

「てめえっ……!」
「はは、良い顔」

 また頬に一発、重い拳が入った。さっきので既に切れていた頬の肉がぐちゃぐちゃだ。口の中いっぱいに鉄の味が広がる。

「良い顔してるよ、真澄」

 綴は楽しそうに笑った。本当に楽しいのだろう。しかし、その目は笑っていない。

「反抗的な真澄にはこれをあげような」

 小道具の中から見つけたのか、綴はどこからか手錠を取り出した。

「抵抗するなよ?」

 そう言って俺の頭を鷲掴みにし、乱暴に床に叩きつけ、両手に手錠を掛けた。
 気持ち悪い。本当は触ってほしくない。同じ劇団にいるだけで不愉快だ。
 だが、こいつがいないと、あいつが。
 怒りを、憎しみを、恨みを。血みどろの歯を食い縛り絶える。
 あいつのためだ。あいつのためなら、俺は。
 あいつが幸せになるのなら、俺はどうなろうと……。
 ふと、下半身に違和感を感じた。見なくてもわかる。いつものことだ、綴の手が俺の股間を掴んだんだ。
 ぞわりと悪寒が走る。

「触るな!」
「今まで何度も触ってんじゃん、そろそろ馴れろよ。まあでも馴れたら面白くないもんな」

 俺が怒鳴ってもまるで気に止めず股間をまさぐる。

「死ね、死ね、気持ち悪い、死ね」
「はいはい。ほんっと勃たないなぁ」

 綴は片方の手を俺の下半身に当てながら、もう片方の手でスマホを取り出し、何かを俺に見せた。

「真澄、これなーんだ?」

 見せたのは写真。
 そこに映っているのは、女。
 風呂にはいる前なのだろうか。ここの寮の脱衣徐で、不自然な角度で撮られている、豊かな胸を露にした下着一枚姿の、豊満な髪の長い、茶髪の、見知った、女。

「カン……トク?」

 カッと、体が一瞬にして熱を帯びた。

「監督も無防備だよな。こんな男がいっぱいいるんだから、隠し撮りされるとか考えないのかな」
「お前……っ!」
「あー、それこそお前とか隠し撮りしてそうだよな。監督の下着とか盗んで抜いたりしてんの?」

 頭の中で何かが切れた。
 俺は叫んだ。
 殺す、殺す。こいつの喉笛を噛み千切ってやる。四肢を切り裂き、死ぬまで懺悔させてやる。磔にして、炎で炙ってやる……!

「いいのか? お前が逆らったら俺はもう脚本書かねえぞ」
 
 ……!

「俺は他の劇団に行くからいいけどさ、お前の大好きな監督はどうなるかな。きっとすっげえ困るだろうなあ、もしかしたらまたここが潰れるかもしんねえなあ」
「っ……くそが!」

  吐き捨てる俺を楽しそうに見つめて、綴はズボンの中に手を入れ直に触りだした。
 気持ち悪い。気持ち悪い。吐きそうだ。

「ほら見ろよ。監督、けっこう胸でかいな」

 スマホに映るカントクを見ながら耳元で囁く。
 お前は、汚らわしい目で、カントクを見るな。

「足もわりと細いし、髪もさらさらだし、案外着痩せするタイプなのか? すらっとしてる」
「……黙れ」
「赤い下着かあ。俺的にはピンクとか、かわいい系着て欲しかったんだけどな。ああでも監督暖色系の下着いっぱい持ってたから、俺好みのやつもあるかも」
「黙れ!!!」
「……くくっ、黙れって言いながら勃ってる」

 ぎゅっと、綴の手が俺の下半身を握りしめた。
 わかってる。最低だ、俺。大好きなあの人のことを俺は汚してる。しかも一番最悪な方法で。

「ほんとに監督好きなんだな、気持ち悪い通り越して尊敬するよ」

 やめろ。

「ほら、もっと見ろよ。監督の体を、足を、腰を、顔を、胸を」

 やめろ、やめてくれ。

「お前が興奮しやすいように文でも綴ってやろうか?『まるで熟れた果実のような豊満な肌に、俺は無我夢中で触れた。後ろから抱き締めているせいか、顔にかかる長い髪がくすぐったい。薄い呼吸をしていた彼女は、性感帯なのか、太ももを撫でるとぴくんと跳ねた。』」

 耳元で囁かないでくれ。嫌でも考えてしまう。脳裏に浮かんでしまう。好きで好きでたまらないあの人のことを!

「『ねえ、もう、ガマンできない……。火照った体でいづみは俺の手を取り、自信の秘部へとあてがった。そこはすでにぐちょぐちょに濡れており、俺自身を今か今かと待ち構えているようだった。ねえ、お願い、ひとつになりたいの。艶かしい声に掻き立てられ、とうとう俺は俺自身を彼女のナカに沈めた』」

 カントク……。
 カントクカントクカントク……っ!

「う……っ……!」

 頭が真っ白になった。
 息が荒れる。嫌な汗がどっと溢れ出す。
 ああ、イってしまった。
 カントクの盗撮画像で、綴の手で、俺は……!

「きったねえの」

 俺の精液でぐちゃぐちゃになった手を、綴はじっと見つめ、その手を俺の顔に押し付け、顔全体に塗りたくった。
 そして、汚れた俺の顔を、カントクの裸の画像が入っているカメラで撮った。
 ……臭い。
 臭い。
 臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!!!

「殺す、殺す……! 絶対殺す!!」
「ははは」

 綴はまるで意にも介さないように、いつものようにからりと笑った。

「そしたらすっげえ面白い話がひとつ、書けるかもな」

 俺にはそれが、ひどく、ひどく、恐ろしく感じた。



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