彼女と彼等の昼食会


彼女と僕等の日常
彼女と彼等の昼食会




あ、以外。この豚の脂身気持ち悪くならない。
ご飯の上に乗せれば、豚の油と煮込みに使っているソースがご飯に絡み合い、これだけで食が進む。

どうせ貧相なモノしか食べていないんだろうと言って注文してくれたのは、私の目の前の席で優雅にお食事を召し上がっている跡部さんで、私は今、奢ってやると言って勝手に注文された、何だかよく分からないが元の料理の名前が長い豚の煮込みに舌鼓をうっている。

私の横では跡部さんの奢りならとウニのパスタとウニのフカヒレあんかけとウニのスープと、どれだけウニが好きなの?と聞きたくなるほどウニばかりのメニューを頼んだ佐伯さんがいて、斜め前、つまり跡部さんの横では銀鱈のソテーとサラダを注文した幸村さんがニコニコと笑みを浮かべて食事をしている。

この笑顔が怖い気がするのは気のせいではないだろう。

少し離れた場所では丸井さん、桑原さん、赤也さん、樺地さんが同じテーブルで食事中で、真田さん、柳さん、柳生さん、仁王さんが私から見て後ろのテーブルで食事をしている。

この人達の注文した食事のメニューもさることながら、量も結構あるのだが、貧相なご飯など食べられないと言って値段がそこそこ張りそうなレストランに私達を連れてきて、奢ると言った跡部さんのお財布が心配だ。

それにしてもなんだろうか、このいたたまれない空気は。

何だかよく分からないが板挟みにされている気分だ。

「あ、それ美味しそうだな」
「うまいっす。先輩のも結構美味そうっすね」
「じゃあ、ちょっとずつ俺のと交換しようぜぃ」
「いいっすよ。ついでにジャッカル先輩も交換しましょうよ」
「おう、良いぜ。じゃあ、いっそお前のとも交換するか?」
「ウッス」
なんてどこぞの女子かと思う会話を繰り広げてお皿の料理をシェアしている彼らがうらやましい。私もあのテーブルで和気あいあいとしたお食事を楽しみたい。

そもそもなぜ私はこの人達とご飯を食べているのか。

コンビニで買ったパンで適当にお昼を済ませる予定のはずだったのだが、何がどうしてこんなことになっているのかと、そもそもの原因を思い出してみることにした。

赤也さんが練習に戻ってからしばらくして、空腹を感じて時計を見れば、後ほんの2〜3分でお昼を迎えるところだった。

さっきアイス食べたのになと思いつつ、ちょうどいいのでお昼にしようとコンビニで買ったパンとペットボトルを鞄から出せば、中のお茶はもうほとんどなく、仕方なく自販機に飲み物を買いに行くことにした。

利用者が多くなることを狙ってか体育館のちかくに設置された自販機で飲み物を買い、遠目で海友会館の出入り口の前に何かの看板が立て掛けられているのに気づいた。

『中学男子テニス部関東大会抽選会会場』

なんとなく何の看板か気になり見に行けば、看板にはそうかかれていた。

おや?赤也さんは視聴覚室で抽選会があると言っていなかったか?
私が知ったかぶりをして案内した体育館はちょうど海友会館の向かい側にあり、中から出てきたバスケ部が近くの水場で水をがぶ飲みしたり、頭から水を被ったりしている。

赤也さんが言った視聴覚室はここから離れた2号館側にある教室だ。

まあ、案内した場所は違うが近くだし、無事に着けたのならいいかと思い美術室に戻ろうとすれば、海友会館の扉が開き中から見慣れない制服に身を包んだ男の子達がぞろぞろ出てきた。

見慣れないといっても男子生徒の制服にそれほど違いがあるわけではなく、カッターシャツがポロシャツだったり、ズボンの素材が微妙に違っていたりと、そのくらいの違いで、女子生徒の制服と違ってそれほどバリエーションはない。

いつまでもじろじろと見ているのも怪しいよなと思い踵をかえし美術室に向かおうとすれば、激しい衝撃。

ぐえ、なんて乙女らしからぬ声が出た。
衝撃で地面に倒れ、日傘が飛んで行った。
あ、なんて思ったのもつかの間、気がつけば男の子が私にのし掛かっていた。

顔を上げた男の子は爽やかなイケメンで、私を見つめる笑顔が眩しい。この笑顔、なんかちょっと見たことある気がする。

どこでだったかなー。
それにしても重い。この子はいつまで私の上にのし掛かっているつもりだろうか。

暑いし、至近距離にある彼の笑顔が眩しくて色々とつらい。そんなことを考えていると、男の子は小さくやっぱりと呟いた。

「名前でしょ?苗字名前、でしょ?」

「ええ、そうです。
あの、重いし、暑いし、近いし、爽やかがまぶしいので離れていただけると嬉しいのですが」

こんな爽やかなイケメンの知り合いいたかな?と思うも、相手は私を知っているようなので、どうやら知り合いらしいのだが、どうにもどこで合ったのか思い出せない。

とりあえず無駄に整った顔を手で押し退けて起き上がれば、跡部さんと目が合った。

うわ、面倒くさい人がいる。

結局はちゃんと道案内できてから良かったものの、また絡まれると面倒なので視線をさっと反らした。

ただでさえ目の前の男の子が妙に私に絡んできて面倒なのに、これ以上の面倒はごめんだ。

「あれ?もしかして覚えてない?俺だよ。佐伯虎次郎。短い間だったけどさ、六年生の時同じクラスで仲良くしてただろ?」

「あ、佐伯さんでしたか。通りでどこかで見たことある顔だと思いました。お久しぶりです、元気にしていたようですね。いい加減私の上から退いてもらえますか?」
ああ、成る程。通りで見たことがあるはずだ。
しかしそれにしても、私の記憶力の悪さがに驚くべきか、数年でここまで大人びた容貌になった佐伯さんに驚くべきか。

「二人とも知り合いなの?」

「おい、俺様の顔を見て表情を歪めるとは、もしかして目が腐ってんじゃねーのか?」

「貴様ら!!講習の面前でな…に…を……!苗字!何をしている!」

それぞれが、ほぼ同時のタイミングで何かを喋った。
は?なんだって?

とりあえず真田さんに呼ばれたことだけはわかったのでそちらを向けば、真田さんがなぜか動揺していて、その後ろにはニヤニヤと悪い事を考えている笑みを浮かべた仁王さんと丸井さんがいて、その横では柳さんが涼しい顔をして歩いて来ていた。

「苗字……お前ってつくづく変なやつに絡まれやすいよな。ほら、立てるか?」

「大丈夫ですか?私も手を貸しましょう」

後から来た桑原さんと柳生さんの手を借りて立ち上がるが、佐伯さんがべったりと引っ付いて邪魔で暑苦しかったので、押し退けるが離れない。

小学生の時に会った彼はこんなに粘着質でべたべたするタイプだっただろうか。

小学生の時の事を思い出してみるが、佐伯さんや木更津さん達にテニスのコートがある場所限定であちこちつれ回された記憶しかない。

そんなことを考えていると、幸村さんが音をたてて手を合わせ「とりあえず、お昼にしよっか。俺、お腹空いちゃった」と言った。



幸村さんの言葉にへぇそっかとは思うものの、わざわざこの面子で昼食を共にする理由もないので、美術室に戻ろうと歩き出した。

ちなみになぜか私にべったり引っ付いて離れない佐伯さんを引き剥がすことは諦めたため一緒である。

「名前も一緒に食べるよ」

そう言われて、え?と思って振り向いた先には幸村さんがこちらを笑顔で見つめていたのだが、その笑顔が何となく怖かったのは気のせいだと思いたい。

「え、いやでも、私美術室にお昼ご飯ありますし、歩くの面倒なのでご遠慮させていただきたく……」

「それくらい面倒くさがるなよ。お弁当、持ってきなよ」

「アーン?テメー等この俺様と昼食を食べるってのにテメー等と同じ貧相な飯を食べさせる気か?しかたねーなこの俺様が美味いもん食わせてやるよ。苗字、テメーは特に美味いもんと縁遠い顔をしていやがるから、直々にメニューを選んでやる。楽しみにしてろ」

「なに?昼飯跡部が奢ってくれんの?やりぃ!赤也もよんでこよーぜぃ」

断ったにも関わらず、私が一緒に昼食をとる方向で話がとんとん進んでいく。

なぜ跡部さんも一緒に昼食を食べる事になっているのか。と言うか、彼の両親は彼にお金の大切さを学ばせるべきだと思う。奢ってくれるのはありがたいが、今の内から湯水のようにお金を使っていては将来金銭感覚がおかしくなりそうだ。

いやもうすでに跡部さんの金銭感覚はおかしいな。とどうでもいいことを考えていると「俺はウニが食べたい」と佐伯さんが跡部さんに言った。

「おう、いいぜ」

跡部さんはおもむろに手を上げると指を鳴らし「俺様についてきな」と、格好をつけて言った。

そして、私は佐伯さんに腕を引かれながら、跡部さんの黒リムジンに乗り込んだ。



思い返してみたはいいものの、原因がいっぱいありすぎてもはやどれかなんて、分からなかった。

しかし確実に言えることは私が海友館でモタモタしていなければよかったと言うことだ。

モタモタしていなければ佐伯さんに体当たりされることも、こうしてレストランに強制連行されることもなかったのだと思うと、男子の制服なんてどうでもいいものを観察していた数十分前の自分が悔やまれる。

「名前大丈夫?食欲ないみたいだけど具合悪い?」

そんなことを考えていると、佐伯さんが心配そうにこちらを伺ってきた。

「あ、はい、大丈夫です。少し量が多くてお腹がいっぱいになってきただけなので」

いつもならペロリと食べれてしまう量だが、レストランの慣れない空気に落ち着かない上に、何故か板挟みにされているような気がするせいで食欲が失せてしまっていたため、ゆっくり少しずつ食べている私を佐伯さんは心配してくれたようだ。

この場に生田さんがいればきっと食欲が失せるなんてことはないのだろうと思うが、彼は昨日から夏風邪のため部活を休んでいて学校に来ていないので、もしものことなんて考えたって仕方ない。

とりあえず、生田さんには今日の夕方辺りにでも豪華なご飯を奢ってもらったことを自慢するメールでも送っておこうと思う。

跡部さんがデザートも注文していたがこれを全部食べると入りそうにないので、デザートは丸井さんにでもあげようかなと考えていると、横から伸びてきたフォークが残っていた豚の煮込みを突き刺し、佐伯さんの口の中に放り込んだ。

何事かと思っていると、豚の煮込みを租借し飲み込んだ佐伯さんがにっこりと微笑んだ。

「デザートたべたいだろ?」

「……はあ、まあ、そうですね」

どうやら佐伯さんの優しさだったらしく、デザートを入れる程度の隙間を確保できたなと思いつつ、ソースだけが残ったお皿に目を移し、何となく顔を上げれば跡部さんが目が合ったので気まずさから笑顔を作ってみた。

食事を食べ終わるのを見計らっていたのだろう、ウェイターの人がデザートを持ってきてもいいか聞いてきたので、お願いしますと頷けば、間もなく其々の席にデザートが運ばれてきた。

運ばれてきたデザートの量がどう見ても今ここにいる人達より多い事に首をひねっていると、跡部さんが得意気に「雌猫ってのはこういうのが好きなんだろ?」と言って、メニューにあるデザート全部注文したと続けられて目眩がした。

誰がこれだけの量のデザートを食べるんだと思ったが、そう言えばここにいる男の子達の胃袋はブラックホールだったと思い横をちらりと見れば、丸井さんが運ばれてきたデザートに目を輝かせていた。

よし、食べきれなくなったら丸井さんにあげようと心に決め、目の前にあったロールケーキを食べた。


「名前、はい。これも美味しいから食べてみなよ」

デザートは別腹なんてよく言ったものだなと思ってロールケーキを食べていると、佐伯さんが自分の食べていたムースのデザートを差し出してきたので、いただきますと言ってそれをいただき、私も自分の食べていたものを佐伯さんに差し出した。

「……テメー等ずいぶんと仲がいいみてーだな」

「そうですか?」

家では兄の聖也さんとよくやるし、生田さんや幸村さんとも食べさせあいはよくやるので、特に何も思わなかったが、そうだよな、年頃の男と子というものは普通異性とこういうことをするのに抵抗があるはずなのだが、生田さん然り幸村さん然り、そんな気配は全く見られない。

つまりそれは私が異性として全く見られていないということなのだが、まあ、異性としてみられても困るのでこれでいいだろう。

「でもまあ、小学生の頃名前がクラスでいちばん仲良かったのって俺だったよね」

仲が良かったというより、仲良くしてくれる子が佐伯さん達以外いなかったためそうなっただけなのだが、クラスで一番仲が良かったのは誰かと聞かれると佐伯さんや樹さんだったので「そうですね」と答えれば後ろからべきりと何かを壊す音がした。

何だと思い振り向けば、真田さんがすごく怖い顔をしていた。

触らぬ神に祟りなしというやつで、慌てて向き直れば、幸村さんが笑顔ですごく不機嫌な様子だった。

さっきから不機嫌だなとは思っていたが、さらに不機嫌になっていて、もしかしたら実はロールケーキが食べたかったのかも知れないと思い幸村さんに切り分けたロールケーキを差し出せば、ぱくりとそれを食べた。

「うん、美味しい。名前、俺のもあげる。あーん」

「え……」

多少は機嫌が上向きになったらしく、幸村さんがそういって自分の食べていたチョコレートケーキを差し出した。

していることはさっきと変わらないのに、あーんと言われると妙に恥ずかしくなり少し戸惑っていると、幸村さんがまた「あーん」と言ってデザートをずいっと差し出してきた。

していることはいつもと変わらないんだし、と思って差し出されたケーキを口に入れるとチョコレートの濃厚な甘さとなめらかな舌触りで、ケーキというより生チョコを食べているかのようだ。少しお酒が強くて大人向けになっている。

「美味しいですね」

「だろ?あ、これも美味しそうだよ。食べてみなよ」

「このゼリーもけっこう美味いよ」

そう言って幸村さんと佐伯さんの両方からデザートを差し出された。

残念ながら私の口は1つだけで胃袋も1つだけだ。2つ同時に食べることもできないし、食べられる量にも限りがある。丸井さんみたいに早食いもできない。

ちなみに彼は早くも3皿めをぺろりと平らげている。さすがに胸焼けをおこしそうだが丸井さんにそんな様子は全くない。

とにかく、私は目の前のロールケーキで十分なので二人で食べさせ合うか、跡部さんに食べさせるかしたらいいんじゃないのかと伝えれば、どうやら話を聞いていたらしい仁王さんがゲラゲラ笑いだした。

「苗字、それはないぜよ」

どうやら駄目らしい。
いいアイディアだと思ったんだけどな。

幸村さんと佐伯さんは大人しくデザートを食べ始め、跡部さんが変な顔をしていた。




デザートを食べ終え、跡部さんに学校まで送ってもらう途中で佐伯さんと連絡先の交換をした。

その日の夕方、佐伯さんから六角テニス部メンバーが夕日の海をバックに写った写真や蛤やアサリやワカメを並べた写真や天根さんが黒羽さんにアクロバティックな突っ込みを入れている場面や亮さんと敦さんが某お笑い芸人のネタの幽体離脱をやっている写真が添付されたメールが送られてきた。

『楽しそうですね』と返信すれば、間も無く佐伯さんから電話がかかった。

その電話に出れば、電話口の人物が六角テニス部メンバーの誰かに代わる代わるし、それぞれに六角に遊びに来るように言われた。

亮さんには突然姿を消したことに対してのお小言をたっぷりもらい、敦さんからは今度家に泊まりに来るようにすすめられた。

泊まる程の距離ではないのでそれを丁重におことわりし、とりあえず、六角に遊びに行きますねと言えば、絶対に来てねと念をおされた。

ずいぶんと信用がないものだ。

その後通話を終え、そう言えばと生田さんに今日跡部さんに昼食を奢ってもらったとメールを送れば、自分が熱で苦しんでいる間に美味しいものを食べるなんて友達がいのないやつだと返信があった。

それに対しての返事を考えていると、六角テニス部のメンバーからアドレス登録要請のメールがおくられてきたので、素直に登録しておいた。

そして携帯のアドレス帳を見て女の子の友達が欲しいとつくづく思った。


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