彼女と彼等と六角
彼女と彼等と六角
そして通う事になった学校の名前は六角第3小学校。
第3小学校と言えばそう、佐伯さんと樹さんが通っていた学校だ。
転入初日に担任の先生に苗字さんと呼ばれて、ん?あれ?なんて思ったが、家族になるのだから、私の名字が椋から苗字に変わったってなにも変じゃないよな。と納得する事にした。
先生に案内されて足を踏み入れた教室には、髪の毛の白い彼と鼻息が凄い彼を随分幼くした感じの子がいた。
他人の空似だろうか?なんて考えながら適当に済ませた挨拶の後、担任の先生が座るように言ったのは、佐伯という名字の男の子の隣の席だった。
他人の空似ではなく兄弟だろうか?
でも佐伯さんに兄弟なんていただろうか?なんて考えながら席に座ると佐伯君は「よろしくね。俺は佐伯虎次郎って言うんだ」と言った。
「俺は樹希彦、よろしくなのねー」
シュポーと鼻息を飛ばしながら前の席の彼は言った。
ここでようやく、私は原作の始まる3年前にトリップしたらしいということを理解した。
て言うか、2人とも凄く可愛い。
なぜ3年前なんだなんて疑問が吹き飛ぶくらいな可愛さだ。
例えるならそう、エンジェルだ。
それくらい可愛い。
2人の可愛さに頬が緩むのを必死に抑えながら「よろしくお願いします」と頭を下げれば、2人はあらためて「よろしく」と言って微笑んだ。
担任の先生が、今日の体育は外だから遅刻しないようにとか、手洗いうがいを忘れずにとか、そんな感じの話しで朝礼は終わった。
朝礼が終われば当然のことながら他の子達から質問攻めに…
あわなかった。
佐伯さん曰わく、最初の自己紹介が無愛想だったから、だそうだ。
自己紹介を適当にやりすぎたかも知れない。
結局、クラスで仲良くなれたのは佐伯さんと樹さんの2人だけで、2人以外のクラスの子達とは仲良くなれなかった。
まあ、私が他の子達に全く話しかけなかったのが1番の原因だろうが、協調性に今ひとつ欠ける私が小学生であるクラスメート達に会話を合わすのはなかなか大変なのだ
まず何が大変って、あの内側から発散させられる輝きに満ちたテンションの高さについて行けない。
つまり疲れるのだ。
合わせようと思えば合わせられるが、できる事なら疲れる事はしたくないのが本音で、面倒なこととなると尚更だ。
学校が終わって、さあ帰ろうと言うとき、友達が出来ない私を哀れに思ったのか、私の心中など知るはずもない佐伯さんと樹さんが、早く帰りたいと言う私を半ば無理矢理、近くのテニスコートにまで引っ張って行き、友達を紹介してくれた。
その友達と言うのは言わずもがな、将来六角中テニス部のレギュラーになることが決まっている面々だ。
エンジェルだ。
幼い彼等を見た私の感想はその一言に尽きる。
このエンジェル達が後3年もすれば、ああなるなんて…。
若干ショタコン嗜好を持っている私には残念で仕方がない。
彼等の未来の姿に思いを馳せ、あまりにも無念でつい目頭を熱くさせれば、何を勘違いしたのか黒羽さんに「泣くほど嬉しいのかよ」と言って背中を叩かれた。
未だに力の加減が良く分かっていないのか、黒羽さんに叩かれた背中がジンジンと痛んだ。
天根さんは「目に涙をなみなみに溜める」と訳の分からない事を言って1人で吹き出した。
頭の回転が遅い私は、、これが親父ギャグだと気付くのにしばしの時間を必要とし、気付いた頃に黒羽さんの過激な突っ込みが炸裂していた。
「……………わぁ、面白い親父ギャグですね」
取り合えず、彼には見え透いたお世辞を言っておいた。
一通り興味の無いテニスの試合を無理矢理見せられ、辺りが茜色に染まる頃にようやく家路につくことが出来た。
帰りは木更津兄弟と一緒だ。
何故なら、何のオプションか知らないが、私の新しい家は木更津兄弟の丁度真向かいにあったのだ。
また明日ねー。なんて言って別れた次の日の朝、早朝6時に家の前まで迎えに来たのには驚いた。
私なんて起きたばかりだと言うのに、この双子の無駄な元気の良さは何だろう?
なぜかテニキャラである彼等に気に入られてしまった私は、放課後は佐伯さんに、休みの日は双子に、という具合に無理矢理遊びに連れ出された。
それこそ、私がどんなに迷惑そうな顔をしたって彼等はお構いなしに私を引っ張り回して、テニスというスポーツがいかに楽しいのかを私に分からせようとするのだ。
そんな毎日がすっかり当たり前になり、中学生になってもこんな調子なんだろうな。と思っていた小学6年の春休み。
「あ、俺さぁ、立海に通おうと思ってるんだよね。て言うか通うから」
春休み初日の夜、みんなで夜ご飯を食べている時に突然聖也さんはそう言った。
聞けば、もう受験も済ませているとのこと。
じゃあ聖也さんは寮になるのかなあ。なんて思ったのもつかの間、なんと和樹さんが神奈川の方に転勤になったことを聞かされた。
それじゃあ、いっそみんなで神奈川に引っ越したらいいじゃないかと言ったのは晴海さんで、あれよあれよと言う間に神奈川に引っ越す事が決まった。
家はどうするんだろう?なんて思ったが、和樹さんがジャジャーンなんてわざとらしい効果音と共に取り出した新しい家の見取り図を見て、最初からそのつもりだったらしいことがうかがえた。
結構、本当に
私からしたら急に決まった引っ越しの話しで、何1つ準備をしていなかった私は残りの数日を荷造りに費やしてしまい、彼等にお別れの1つも言えずに引っ越してしまう事になった。