彼女と日吉と不良
 
 
彼女と僕等の日常
(番外編)

彼女と日吉と不良






秋、秋と言えば、食欲の秋、運動の秋、読書の秋と色々あるが、今日は芸術を楽しむためにわざわざ東京までやって来た。

しかし困ったことに、迷子になった上に、見るからに素行の悪そうな人に絡まれてしまった。

引きこもり気質の私が、好きな画家の作品を見るために東京に出て来たのが悪かったのか、人の迷惑も考えず道端で輪になりヤンキー座りをしていた彼等が珍しくて、思わず凝視してしまったのが悪かったのか。

多分後者なのだろうけど、女の子の方なんてパンツ丸見えだったのだ。
びっくりして凝視てしまったのは不可抗力というやつだ。

そして何だか視線が刺さるなー。なんて思っていたら、お決まりの「何見てんだよ」と言われ、「すみません」と謝ったら、見物料をよこせと言われた。

何か芸でもしていたならまだしも、彼等は道端に座っていただけだ。

「無理です」

とキッパリ断れば「あ?」と凄まれた。

お金を取られたらどうしょうと思いつつ、これが世に言う“カツアゲ”というものなのかと頭は妙に冷静で、でも心臓はバクバク言っていて、緊張しているのか手が冷えてきている。

誰か助けてくれないものかと辺りに視線をやると、頭が少し寂しくなり始めたサラリーマンと目が合った。

しかし、サラリーマンはぱっと視線を反らすと足早にその場を立ち去ってしまった。

東京の人は冷たい。

とは思うものの、関わりたくない気持ちは分からなくもないので、まあ、仕方ないか。
と自分に言い聞かせた。





 
 
走って逃げるにしたって女の私じゃあすぐに追いつかれてしまうだろうし、むやみやたらにあちこち走り回って余計に迷子になってしまうのは避けたい。

どうしたものかと考えていると「おい、聞いてんのかよ」と怒られてしまった。

まさか、考え事をしていて聞いていませんでした。なんてことを言えるはずもなく、「あー…」と言いながら言葉を探していると「おい、通行の邪魔だ」と妙にねちっこい声がした。

「あ?何だと?コルァ」

と言って振り向いた不良は「げ」と漏らし、その不良の肩越しから声のした方を覗き見れば、そこには一際目立つオレンジの髪にキノコヘアーの、そう、日吉若その人が酷く不機嫌な様子で立っていた。

「邪魔だと言っているんだ。
それと、氷帝の制服を着て氷帝の品位を落とすようなことをするな。
俺までお前等の仲間だと思われるのは迷惑だ」

そう言われてあらためて彼等の服を見れば、それは確かに氷帝の制服の様で、胸には大きく『帝』と書かれたエンブレムがあった。

氷帝と言えば、お金持ちの子供が集まる学校として有名だが、こうやってカツアゲをするところを見るとそうでもないのだろうか?

私がそんなことを考えていると、不良は舌打ちをして私を一睨みするとリーダーらしき男が「行くぞ」と言い、足早にその場を立ち去った。

「あの、助けていただきありがとうございます」

不良達を見送った後、はと我に返り彼にそう言えば、彼は私をちらりと見下ろし「通行の邪魔だっただけだ」と言った。

まあ、確かに通行の妨げにはなっていただろうが、それは道路の反対側を通れば済む話で、現に私を見捨てたサラリーマンだってそうしていた。






 
 
矢張り彼は私を助けてくれたのだと思うのだが、彼はそれを素直に認めそうにもないので「でも、私は助かったので」と言い、もう一度頭を下げた。

「それであの、ついでにもう一度人助けをしたくはありませんか?」

「ない」

キッパリとそう言い切った彼はスタスタと歩き出た。

私は慌てて彼の制服の裾を掴み「そんなこと言わずに!私、道が分からないんです!迷子なんです!ここに連れて行って下さい!」と言って、画家の絵と個展の開かれている住所の印刷されたパンフレットを彼に見せた。

彼はそのパンフレットと私を見比べ、1つ大きなため息をつくと「ここなら、俺が向かう場所の近くだ。仕方なく、案内してやる」と『仕方なく』の部分を妙に強調して言うと、またスタスタと歩き出した。

「ありがとうございます!」

そうして一緒に歩き出したのだが、終始無言の彼と彼の歩くペースに着いて行くのでいっぱいいっぱいの私との間に会話はなく、話しかけられたと思えば、名前を問われた。

「#name1#です」

と軽く息切れをおこしなが答えれば、彼は「そうか」とだけ言った。

一体何だろうか?と思い次の言葉を待つも、何も喋らないところをみると、ただ聞いただけのようだ。

彼が私の名前を聞いたのだから、私が聞かないのはおかしいだろうと思い「あなたの名前は何ですか?」と私が問えば、意外にもあっさりと「日吉若だ」と彼は答えてくれた。

しかし、私の方も特に話したいこともなかったため、「そうですか」としか返せなかった。





 
 
それから個展会場に着くまでの間に日吉さんから「絵が好きなのか」とか「本は読むのか」などの質問をいくつかされたが、私の名前を呼ぶ事はなく私を呼ぶ時は大概「おい」とか「お前」で、私の名前を呼ぶ気はなさそうだ。

そもそも日吉さんは、私のことを年下か同い年と思っている様な気がする。

一歳位の年の差なんて私からしてみればあって無いようなものなので、特に気にしないが、運動部の彼はそう言うのに凄くうるさそうだ。

まあ、言わなければ済む話だし、きっと東京に行くことが無ければ会うこともないだろう。

それに日吉さんが私を覚えている可能性はかなり低い。

と、言うことで、結局彼には何も言わずにおくことにした。

「ありがとうございました」

個展会場に着き、彼にそうお礼を言えば「道がたまたま同じだったから案内しただけだ」と日吉さんは言った。

ああ、彼は本当に素直じゃない。

そう思うと自然と笑みがこぼれ、「でも、やっぱり私は助かったので」と前と同じ台詞を言い、頭を下げた。

「あ、あとお礼になるか分からないんですけど、良かったら食べて下さい」

そう言って日吉さんにおやつにと思って持って来たお饅頭を手渡した。

アンコは抹茶だ。
これなら、甘い物が苦手そうな日吉さんでも多分食べれるだろう。

そして日吉さんと別れた私は、絵を堪能し、帰りにまた迷子になってしまったのは言うまでもないだろう。






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