彼女と忍足と脚線美
(番外編)
彼女と忍足と脚線美
日吉さんに会った日から1週間が経った。
秋もすっかり深まり、青々とした葉は赤や黄色や茶色に色が変わり、青い空とのコントラストが凄く綺麗だ。
あれだけうるさかった蝉の鳴き声は今はもう聞こえず、入れ替わる様にして聞こえる様になった鈴虫や松虫の鳴き声が耳に心地良い。
冬が好きな私は、もう少しで冬になるんだと思うと嬉しくて胸がドキドキした。
私は踏めばサクサクと音がする落ち葉を踏みながら、せっかくの休日の土曜日だと言うのに、立海の体操服の入ったカバンを肩から下げ、学校に向かって歩いていた。
そもそもの始まりは、幸村さんのいつもの訳の分からない思い付きの一言から始まった。
「よし、明日は#name2#を1日だけ俺達テニス部のマネージャーにしてやろう!」
いつものように生田さんと教室でお弁当を食べ終わり、そのまま生田さんとのんびりとしていると、食堂から帰って来た幸村さんは教室の扉を開けるとそう言った。
詳しい話を聞けば、明日学校で氷帝と合同で練習試合があるとかで、氷帝にも立海にもマネージャーがいないため手伝いをして欲しいとのことだった。
「お断りします」
テニスに興味の無い私は、当然の事ながらテニスのルールなど一切分からない。
そんな私が彼等の役に立つとも思えないし、何より面倒で、キッパリとそう言えば「そんな!#name2#は俺達がどうなってもいいって言うの!」とまた訳の分からない事を言った。
正直、彼等がどうなろうが私の知った事ではないが、このまま意固地になって断り続けるのも大人気ないし、頼られるのは悪い気はしない。
そう思って仕方なく1日だけのマネージャーの話を引き受ける事にした。
そして、私が1日だけマネージャーになると言う話しは本当に幸村さんの思い付きだった様で、学校のテニスコートに着くと皆さん酷く驚いた様子だった。
「#name1#が幸村の話を受ける確率は90%だった」
そう嬉しそうに言ったのは柳さんで、どうやら彼はこのことを知っていたようだ。
「で、#name1#さんは何をしにわざわざ土曜日の学校まできたんッスか?」
“わざわざ”と付ける辺り、私が休日に学校に来ることは無いと分かっていての発言なのだろう。
さすが切原さん、よくわかっていらっしゃる。
「今日1日だけ皆さんのマネージメントをするように幸村さんに言われたので、仕方なく来ました」
私が『仕方なく』の部分をあえて強調して言ったにもかかわらず、切原さんは「#name1#さんが応援してくれるんッスか!俺、頑張るッス」と嬉しそうに言った。
そもそも私は『応援する』などと一言も言った覚えは無いのだが、どうやら切原さんは自分の都合の良いように解釈してしまったらしい。
「お前、テニスのルール分かるのかよぃ」
「面倒臭がりのお前さんが、ちゃんと俺等のマネージャーをできるんか?」
その疑問は最もで、幸村さんの話を受けたはいいが何をすれば良いのかさっぱり分からない。
「無理じゃないですか?」
無責任に私がそう言えば、桑原さんが「腹が痛くなってきたかも」と言ってお腹を押さえた。
「安心しろ。#name1#には主にドリンク作り、ボールの用意などをしてもらう。
スコア付けなどのテニスに関わる事は生田がする」
柳さんがそう言い終わるのを見計らったかの様にして現れた生田さんを見て、ますます私が来た意味が分からなくなった。
それから体操服に着替えた私は、柳さんに氷帝を校門まで迎えに行くように言われた。
その途中に出会った真田さんに、切原さん達と同じ用な事を聞かれたので「今日1日だけ皆さんのマネージメントをするように幸村さんに頼まれたので」と言えば、真田さんは少し顔を険しくさせ「む…。それは…、大丈夫なのか?」と言った。
「まあ、ドリンクを作ったりボールを用意したりするのをメインでやれば良いみたいなので、どうにかなるんじゃないんですか?」
私がそう言えば、真田さんは「そうか、それなら安心だな」と何だか失礼な気がしないでもない事を言うと、テニスコートに歩いて行ってしまった。
そして、校門で氷帝が来るのを待つこと数分。
来た。
バスの前の方にでかでかと“帝”とかかれたちょっと乗るのが恥ずかしくなるようなバスが。
校門の前で止まったバスからは、氷帝レギュラーの皆さんがぞろぞろと降りてきた。
その中には当然、この間お世話になった日吉さんもいて、私に気付くと一瞬驚いた表情をした。
どうやら彼は私が年下だと思っていたようだ。
「ようこそ立海大付属中学へ」
そう言って頭を下げれば「あーん?てめーはこの間の変なメス猫じゃねーか。何でてめーが迎えに来てんだ?」と相変わらずの偉そうな態度で跡部さんはそう言った。
3度も同じ説明をするのは面倒で「まあ、色々ありまして」と言えば、跡部さんは何を勘違いしたのか「俺様の美技に酔いにきたんだろう?あーん?」と言ってきた。
「否定するのも面倒なので、そう言う事にしておきますよ
テニスコートまで案内するので、着いて来てください」
そう言って私はテニスコートに向かって歩き出した。
「なぁ、自分、跡部の知り合いなんか」
腰砕けになりそうな声でそう問われ横を向けば、もっさりとした暑苦しそうな髪型で、丸眼鏡をかけた彼がへらりと笑いながら私を見下ろしていた。
「いえ、知り合いではく、ただの顔見知りです。」
現に跡部さんに会ったのは、全国大会のトーナメント抽選会でたまたま会ったあの時の1度きりだ。
知り合いと言う程親しい訳でもない。ただお互いが顔を知っているだけの間柄だ。
しかし、会ったのも話したのもほんの少しだったのに、私の印象が“変なメス猫”とは一体どういうことだろう?
そんな印象を与える程変な事をした覚えはないのだが。
そんな事を考えていると忍足さんがまた質問をしてきた。
「嬢ちゃん、名前は?」
「#name1#です」
「ちゃうちゃう。上の名前やのうて、下の名前や。
あ、俺の名前は忍足侑士や」
私の下の名前を知ってどうするつもりか。
忍足さん自己紹介をすると、頼んでもいないのに日吉さんを含むレギュラーの面々を紹介していった。
「あのおかっぱでぴょんぴょん跳ねとるんが向日岳人。
髪の長い奴が宍戸亮。
その隣におるデカいやつが鳳長太郎。
跡部の後ろにおるデカくて、ごついんが樺地宗弘。
そんで、その樺地に背負われとるんが芥川慈朗。
1番後ろを黙って歩いとるんが日吉若。
その少し前を歩いてるのが滝萩之介。
で、嬢ちゃんの名前は?」
なぜ忍足さんは私の名前にそこまで固執するのかよく分からないが、別に隠しているわけでもないため「#name2#です」と答えれば「#name2#さんな」と忍足さんは妙に満足そうな表情で言った。
『テニス部のマネージャーなん?』『何が好き?』『兄弟は?』その後も続く忍足さんの質問。
それこそ、そんな事まで聞いてどうするんだろう?と言うものまで彼は聞いてくる。
彼の質問責めにいい加減うんざりしてきた頃、「おい、侑士。何さっきから#name1#に質問ばっかりしてるんだよ。いい加減にしねーと、気持ち悪いだろ」と向日さんが相変わらずぴょんぴょん跳ねながら言った。
「そうだよ。#name2#ちゃんもきっとうんざりしてるし迷惑だと思うC」
その声と共にずしりと背中に圧力がかかり、「ね、#name2#ちゃん」と問われ横を向けば、ドアップで芥川さんの顔があった。
いつの間に起きていたのか。
私が名乗った時に眠っていたはずの彼がなぜ私の名前を知っているのか。
なぜそこで私に話をふるのか。
聞きたい事は色々あるが、取りあえず芥川さんには今すぐ私から離れて欲しい。
背後から覆い被さるようにしてもたれかかってくる芥川さんの重みで歩きづらいし、いくら秋になって涼しくなったといえど、まだ暑さの残るこの時期にこうも密着されては暑苦しい。
おまけに彼はまた夢の世界へ飛び立とうとしているようで、ずしりずしりと着実にその重みが増してきている。
その次第に重くなる様子は、まるで子泣き爺のようだ。
体力のない私が彼の重みに耐えきれず、倒れてしまうのも時間の問題だろう。
「せやかて、跡部にあんな態度とる女の子なんかなかなかおらんから、どんな子なんか気になんは仕方ないやろ?」
それがどうして私の身長や体重に繋がるのかは、私には全く理解出来ないが、忍足さんにとっては私を知るために必要な情報らしい。
気持ち悪いことこの上ない。
ああ、気持ち悪くて鳥肌が立ってきた。
「気持ち悪いですね」
そう言って忍足さんから数歩離れれば、忍足さんはその数歩離れた分だけ近づき「じゃあ、これが最後の質問や」と言ってにっこりと笑みを浮かべた。
「何でしょう?」
と警戒心をむき出しにしてそう返せば、忍足さんは一度視線を下にやり「何でハーフパンツやのうて長パンなん?」と問うてきた。
「は?」
別に私がハーフパンツを履こうが履くまいが、それは私の気分や好みの問題であって、忍足さんには関係ない話しだ。
それなのになぜこんなにも変な迫力のある笑顔でそれを問われなければならないのか。
「俺な、足の綺麗な子が好きなんや」
何を思ったか、忍足さんは突然そう切り出した。
私はそれにどう返せば良いのか分からず、何も言わず黙っていると「そんでな」と言い、それはもう爽やかな笑みを浮かべた。
「長パンなんか履いてたら、足が見れんやろ?俺が。
だからハーフパンツに履き替えて来」
「お断りします」
忍足さんの言葉を遮りそう言えば「#name2#さん、わかってへんな。よう聞き」と、さっきとは打って変わった真剣な表情で忍足さんは喋りだした。
「綺麗な足を見るんが俺は好きなんや。
スカートからすらりとのびた足、オーバーニーとショートパンツ又はミニスカートの間にできる絶対領域、網タイツを履いた官能的な足。
そのどれもが俺を夢中にするんや。
綺麗な足っちゅうんは、細すぎても太すぎてもあかん。ある程度筋肉もあって、色は白い方が俺は好みやな」
生き生きと足について語る忍足さん。
ここまで足に語れる彼は足フェチ云々を通り越して病気だと思う。
と言うか、初対面の私にこんなことを話す彼はどうかしている。
こんなことを考えている間も、忍足さんはふくらはぎがどうだ、足首は細めがいいだのと足に着いて熱く語っている。
「忍足キモイC」
「侑士気持ちわりーよ」
芥川さんと向日さんは私を壁にしてそう言うと、なぜか私をぐいぐいと忍足さんの方に押してくる。
一体何がしたいんだこの2人は。
取りあえず、忍足さんにはなるべく近付かないようにしようと思う。