おやすみ、よい夢を

※ネタバレ有り
なるべく最小限に抑えたつもりですが、本編のネタバレ要素を含みますので苦手な方はご注意下さい。















おやすみ、よい夢を


妙な暑苦しさを感じて目覚めてみれば、肌になにか温かなものがピタリとくっついている感覚がして、明らかに自分以外の存在を表して膨らんでいるシーツをめくって覗いてみれば、白いものが自分にピタリと引っ付いていた。
寝ぼけた頭で自分以外の呼吸音があることに気付き、"白いもの"がなんなのか理解して、あ、と思って、慌てて体を起こしてベッドの端に体を寄せた。
普通ではなかなか拝めることのできない白く長い髪の毛が、ベッドに散らばっているのを見て、やっぱり山下だと判断した。
もしかしたら、俺が寝ぼけて自分の部屋以外で眠ってしまったのかもと思い部屋の中を見回すが、どう見てもここは俺の部屋で、そう言えば、マルコやサッチ達の古株のクルー達が山下は寝ぼけて人のベッド潜り込む癖があると言っていたのを思い出した。
「にしても……何で、俺のベッドにもぐりこんでんだよ……」
そんなこと呟いてみるが、眠っている山下から返事があるはずもなく、人の気も知らずにすやすやと気持ち良さそうに寝息をたてている。
月明かりに照らされた山下の寝顔は平和そのものといった風で、ついこの間の戦いが嘘なのではないかと思えるほどで、あまりにも無邪気なその寝顔にため息をはいた。
山下は俺が白ひげ海賊団に入る前からいたクルーの一人で、ついこの間のマリンフォード頂上決戦の日に、どういう能力の持ち主なのか、その不思議な力で俺を助けた後にオヤジも助けだしたのは記憶に新しい。さらにその前だと、ティーチに殺されかけたサッチを身を呈して助けたと言う話で、寝返りをうって背を向けた山下の背中には、その時の怪我のあとが痛々しくも残っている。
男ならまだしも、女の子である山下の背中に刻まれたその傷の痛々しさに思わず手を伸ばして、ふと動きが止まった。
今この状態で傷が見えて、それに触れられると言うことはつまりそういうことだ。
誰か山下に羞恥心とか貞操観念とか教えるべきではないだろうか?男所帯のこの船でなぜ山下はこうも無防備でいられるのかと思うほど隙だらけで、あまり山下と関わりのかなかった俺や他の新しいクルー達は山下の行動の一つ一つに戸惑ってばかりいる。
山下が無邪気で無防備な分、イゾウやハルタ達隊長格のガードが半端じゃないわけだが、それにしたってこれはよろしくない。
また寝返りをうってこちらを向いた山下に慌ててシーツを被せてそんなことを考えていると、山下の目がゆっくりと開かれた。
「起きたか?」
むくりと体を起こした山下にそう聞いてみるが、ぼんやりと眠そうな表情が次第に不機嫌になっていき「さむい」と一言呟いた。
そりゃ、いくら春島が近くて天候がよくても、やっぱり夜は冷えるし、下に何も着ていない素っ裸の状態にシーツ一枚羽織っただけなんていう格好じゃあ寒いのも当然だろう。
山下のまだ眠たげな目が俺をとらえ、イイモノを見つけたとでも言うかのようにその目が細められ、腕がのびてきたかと思うとそのまま抱きつかれてしまった。
「!?……おい!離れろ!」
慌てる俺をよそに、山下はまるで動物のように俺の体に頬をすり付けてきて「あったい」と満足そうに呟くとまた寝入ってしまった。
「……どうしろってんだよ」
いや、どうもしないのが正解なんだろう。一応命の恩人な訳だし、でも、据え膳を食わぬはナントカって言うし、だけど、その後の事を考えると恐ろしくて現状の維持に努めることにした。
寝ながらも俺が眠れない事を察したのか、山下が俺の体に絡めた腕を動かし、背中をトントンと叩き始めた。
心なしか途切れ途切れに歌も聞こえる気がする。
「俺はガキじゃねぇんだぞ……」
そんなもんで眠くなるかよ。と呟いてみるものの、背中を叩くリズムと山下の体温が心地よく、それに追い討ちをかけるように耳障りのいい歌声のトリプルパンチで確実に眠気がやって来るのを感じながらも、でも"据え膳……"と混濁してきた思考で考え、もういっそ現状維持に努めて翌日寝不足になるよりは、このまま眠ってしまった方が楽だと思い、襲いくる眠気に身を任せることにした。


end



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