魔法少女になりました
魔法少女になりました
いったいなんの因果だろうかと考えながら、下卑た笑みを浮かべる海賊を見てため息をはいた。
「シャボーン・スプレー」
別になくてもいい呪文とともに手に持った杖をひと振りすれば、スプレーとは名ばかりで、海賊船の横の海面が盛上り、帯状になった海水が海賊達目掛けて流れ落ちていった。
海賊達の中には悪魔の実の能力者もいたため、海水を被った能力者はぐたりとし、他の海賊達は水圧で押し潰されぐったりしている。
「水でも被って反省しなさい」
そんな海賊に達に向かって決め台詞を言い、全く上がらないテンションのまま船内に引き返せば、大変暑苦しい男達が私を出迎えてくれた。
「#name1#さん!お疲れ様です!」
一歩踏み出してそう言った男性は、私に向かって敬礼をすると、他の部下達に海賊を捕らえるように指示を出した。
「あ、はい。お疲れ様です……」
指示を出しつつも相変わらず私に向かって敬礼をする彼にペコリと頭を下げ、前を通りすぎると、私へと用意された部屋へ引きこもることにした。
部屋の扉を静かに閉め、着ていた服を脱ぎ捨てベッドに叩きつけた。
こんなフリフリヒラヒラな服なんて着ていられるか!
なぜかワンピースの世界にトリップして早2年。グランドラインにある小さな島で地道に働きながらお金を貯めて、元の世界に戻るための手がかりを探していた私に、馴染みの八百屋のおじさんが珍しい果物があるよと言って試食用にカットされた果物をすすめられるがままに食べたのが駄目だった。
くそ不味い果物を食べたその日の夕方。"不味い果物"という点で何となく嫌な予感を抱えながらも、鼻歌を歌いながら料理をして、何の気なしに菜箸をひと振りすると、突然ガスコンロの火力が上がり火柱がたった。
どういうことか全く理解できず再度菜箸をひと振りすれば、キラキラとしたエフェクトが表れ、気がつけば火は収まり、さっきまで火柱がたっていた場所には黒焦げになったフライパンと野菜炒めがあった。
黒焦げになったそれをどうにかできないかとまた菜箸をひと振りすれば、キラキラとしたエフェクトがそれを包み込み、あっという間に美味しそうな野菜炒めとピカピカになったフライパンが現れた。
多分あの果物のせいだよなと考えながら、菜箸をひと振りして焦げた天井を元に戻せば、窓の向こう側に私に件の果物を食べさせた八百屋のおじさんが青い顔をしてこちらを見ていた。
悪魔の実を食べさせたのはおじさんだし、別に知られて困ることではないよなと思い、走って立ち去って行くおじさんをそのままにして、出来上がった野菜炒めをお皿に盛り付け試しに食べてみた。
じぶんでつくったのよりもよっぽど美味しいなと思い、何の悪魔の実を食べたのかはわからないが、便利な能力を手に入れたことを喜んでいると、部屋に海軍が乗り込んできた。
一体なんだと思っていると、海軍の後ろにいたおじさんが怯えながら私を指差し「あの子が悪魔の実を食べた能力者です」と言った。
そりゃないぜおじさん。
なんて思う私をよそに、海軍は私の手首に海楼石の手錠をはめた。一体私がどんな悪いことをしたんだと言う疑問は無視され、何の説明もないまま船に乗せられ、着いた先は海軍本部のあるマリンフォードだった。
そこで案内された場所は、意外にも牢屋などではなく、簡素で物が綺麗に整頓された部屋で、相変わらず外されることのない手錠にチカラが奪われぐったりしていると、頭にカモメを乗せたおじさんがやって来て、自分はセンゴクだと名乗った。
「マホマホの実の悪魔の実を食べたという人物は君か?」
マホマホの実というのがどういう実なのか分からないが、悪魔の実を食べたのは事実なので頷けば、その人は私をしばらく見つめると「うぅん」と唸った。
「その手錠を外してほしいか?」
何を当然のことを聞いているんだと思いながら返事をすれば、センゴクさんは「わかった。外してやろう。ただしそれには条件がある」と言った。
え、それってもう答えはイエス以外にないですよね?なんて私の心のツッコミがこのおじさんに聞こえる訳もなく、海軍のイメージアップキャラクターとして働いて欲しいと言われた。
私の食べた悪魔の実はマホマホの実をと言うらしく、食べれば魔法が使えるらしいその実はたいへん希少価値の高いものだそうだ。
悪魔の実なんてどれも世界に1つしかないのだから全てが希少な物だろうとは思うのだが、前の能力者が死んでからまたその実が出来るまでの期間が実によって違うらしく、それに応じて世界に1つしかない悪魔の実の稀少価値のは変わってくるらしい。
そんな中で、私が食べたマホマホの実は、以前の能力者が死んでから約100年は経っているらしい。能力者が存在していた時代があまりにも古いため正確な文書は残っておらず、形と名前と"魔法が使える"と言うことだけはだけは把握されていたが、どのような条件でその"魔法"が使えるのか、能力に制限はあるのか、など分からないことも多く、その実が一般人の手に渡ると危険だという理由で、その実を偶然見つけた海軍は、本部で厳重に保管することに決めたのだが、どこぞの海軍が運送中にうっかりその悪魔の実を海に落としてしまい行方知れずになってしまっていたのだ。それを八百屋のおじさんが偶然見つけ、それをうっかり食べたのが私と言うわけだ。
そして、"魔法"と言うからには、使い方次第で強大な武力にもなるため、もし、私が海賊なんかになったりしたら大変だ。ということで、監視の意味も込めて海軍で働いて欲しいということだ。
理解したくないが頑張って理解するしかない。
なぜイメージアップキャラクターとしての活躍を求められることになるのかは全く理解できないが、海軍の偉いおじさん達が徹夜明けの疲れた思考のまま、頭をつきあわせて頑張って考えた結果なのだろうと思うことにした。
「でも、イメージアップキャラクターって何をすればいいんですか?」
「君にはなるべく一般人の多い場所に出動してもらう予定だ。そして出動時にはこの制服に着替えてもらい、海賊や山賊、強盗達を取り締まって欲しい」
そう言いながらセンゴクさんが差し出した紙を見ると、どこぞの低年齢向けアニメに出てきそうなフリフリヒラヒラの服装のイラストが書かれていた。
「……断れば、手錠は外してもらえないんですよね?」
「そうだな」
「もし、断ったらどうなりますか?」
「能力の危険性を考えたら、インペルダウンに収容するのが妥当だろうな」
「何も悪いことをしていなくても?」
「……そうだな」
あ、これはもう断るという選択肢はないな。分かってたことだけど。
そう悟った私は、よろしくお願いしますとセンゴクさんに頭を下げた。
そんなことがあったのが4ヶ月前。
元帥だというセンゴクさんの補佐官という偉いのかそうでないのかよく分からない役職をもらった。この世界に来てからの期間がそう長くはない私にはよく分からないが、海軍に所属している人達の前を通りすぎると大体みんな私に敬礼するので、それなりに偉い立場なのだろうと思っている。
一仕事終え、マリンフォードの海軍本部にに用意された自分の仕事部屋で、今回の報告書をまとめていると、部屋の扉がノックされた。
「……はい、どうぞ」
「失礼します」
そう言って入ってきたのは、私の世話役兼、見張り役兼、プロデューサー兼、部下のドーリさんだ。
「今回もお仕事お疲れ様です。帰って来て早々で申し訳無いのですが、三大将の喧嘩を収めて頂きたく……」
その言葉を聞いて明らかに表情の歪んだ私に向かってドーリさんは、「もし、サボろうとすればセンゴク元帥にチクります」と言った。
「えっ…と……。三大将の喧嘩を収めるのも仕事のうちなんですか?」
「ええ」
仕事じゃあ仕方ないと重い腰を上げ、三大将が喧嘩をしている場所に向かえば、サカズキさんはマグマグしていて、クザンさんはヒエヒエしていて!ボルサリーノさんはピカピカしていた。
「……うわぁ」
思わずそんな声が口からこぼれる。
まわりで心配そうに3人の様子を伺っていた海軍達に事のあらましを尋ねれば、今度の土曜日に開催される私の初ライブに合わせて、誰が休みを取るかでもめているらしい。
ちなみに、海軍のイメージアップに貢献できているかどうかは別として、歌って踊って悪を退治できる魔女として、小さい女の子や大人の男性とやや片寄りはあるものの、私はそこそこの人気があるらしい。
私は小さくため息をはき、この下らないとしか言いようがない喧嘩を収めるために小さく息を吸い込んだ。
「テクマクマヤコンテクマクマヤコン、3人とも可愛い動物になーれ」
そう言って杖をひと振りすれば、大将たちの驚いた表情をよそに、キラキラとした乙女チックなエフェクトが彼らのまわりを漂い始め、それが全身を包みこんでゆき、エフェクトが消え大将達がいた場所には可愛い容姿をした猿と鳥と犬がいた。
「はは、3人とも可愛いですよ」
私はそう言って脱兎のごとくその場から逃げ出した。
だって、私を見る3人の目がなんというか、形容しがたいのだが、なんかちょっとおかしかったのだからしかたがない。
end