欲しいものは諦めない

欲しいものは諦めない

カモメが1羽

カモメが2羽

カモメが3羽

カモメが4羽

カモメが…。

空をぼんやり眺めてカモメが上空を飛び去るのを数えながら、目的の人物が現れるのを待つが、今日はその姿を現しそうにない。
あきらめてその姿を探すことを止めて、上を向いていたために疲れてしまった首と肩を回し、凝りをほぐしていると、ぼんやりと遠くに探していた影が見えた。
白鳥が白い羽を広げ、優雅に甲板に降り立ったかと思うと、それはたちまち人の姿になった。
「よう、エース。待ったか?」
「そうだな。2週間くらいな」
そう言った俺に#name1#は「なんだいつも通りじゃないか」と言って笑った。
この#name1#という人物は、おれが海賊になりたての頃に、たまたま立ち寄った無人島で俺が見つけた男で、家族も、家も、仕事もなにもないというそいつを保護したのはほんの数年前の話だ。
「ここはどこだ?」
#name1#を保護した当初、そんなことを尋ねてくるそいつに違和感を抱き、詳しく話を聞けば、今までどうやって暮らしてきたのかと問いたくなるほど、そいつはこの世界の事を何も知らなかった。
もしかして記憶喪失とかの類いのものなんじゃないのかと思ったが、自分の名前はしっかり覚えているし、素早く計算したり、クルー達の名前を1度で覚えてしまうあたり、頭の出来なんかは俺よりもよっぽどいいようだった。
地図を見せて欲しいと言うそいつに、地図を見せれば、こんな作り物の世界の地図を見せてどうするんだよ。と言われ、益々訳がわからなくなりながらも、これが俺達が航海に使っている地図だと告げれば、そいつは頭を抱えてしまった。
暫く間を開けて顔を上げた#name1#の口から 次々に出てくる単語は、聞き覚えのないものばかりで、「1つでも分かる単語があったか?」と尋ねる#name1#に首を振って返事をし、どういう意味か尋ねるが、分からなかったのなら良い。の一点張りで教えてくれなかったため、未だにその言葉の意味はわからない。
「もしかしたら、俺はこの世界とは別の世界から来たのかも知れない」
なんて突飛な事を#name1#は言い出したが、およそ想像しうる出来事の全てが起る可能性のあるこのグランドラインだ。
#name1#本人がそう言うのなら、もしかしたら本当にそうなのかも知れないとあっさり信じれば、#name1#は苦笑いを浮かべた。
「ずいぶんあっさり信じるんだな」
「いや、だってここ、グランドラインだしよ」
「なんだ?そんなものが理由になるくらい、この世界はハチャメチャなのか?」
「………そう、だな」
声を出して笑うそいつに、何が可笑しかったのかと聞けば、もう笑うしかないだろう?と返された。
とりあえず、暫くは俺の船で厄介になるが、安全な島に着いたらそこで下ろして欲しいと言われ、特に断る理由もなかったため、それを承諾すれば、「最初に出会ったのがエースでよかったよ」なんて言われて、今まで鬼の子だの何だのと言われて疎まれてきた俺は、それになんと返事をすれば良いのかわからず、顔を赤くして照れるしかなかった。
それから数ヶ月の間だけ、一緒に航海をしていたが、#name1#はどの島に着いても下りる気配のなかったため、もうてっきり#name1#は俺達と一緒に海賊を続けるのかと思っていたのに、そこそこ賑わっていて、そこそこの大きさの島に着くと「うん、俺、ここに住むわ」とあっさりと俺に言ってよこした。
もうすっかりスペード海賊団の一員になってしまっている#name1#が抜けては、色々支障も出るし、これだけ俺達に馴染んだ#name1#が船からいなくなるのは寂しい。
「俺達との旅は楽しいだろう?だったらこれからも一緒に航海を続けていこうぜ」
そんな台詞を交えつつ、なんとか#name1#を引き留められやしないかとあれやこれやと手をつくすが、#name1#は頑として頭を縦に振らなかった。
「 いや、元々そんなに長くエース達と航海するつもりもなかったし、それに俺は弱いからな。敵が船を襲ってきたって足手まといにしかならない。それはごめんだ。お前たちと一緒に航海していて、この世界のことはだいたい理解出来たし、俺が船を下りて居なくなって困るって言うんなら、そうならないように引き継ぎはちゃんとしておくよ」
その言葉の通り、#name1#は自分が居なくなっても困らない様に、今まで自分がしてきた仕事をクルー達に丁寧に教え、さらには分かりやすく書かれたメモまで残して船を下りて行った。
メモの中には、俺がぶちギレた時の対処法まで書いてあったのだから、本当にしっかりしすぎている。
暫くの間は#name1#がいないと言う状況に慣れなくて、何気なく#name1#の名前を呼んで、そういえば、あいつは船を下りたんだったと思いだし、寂しい思いもしたが、それも日々の慌ただしさの中で薄れていった。
そうこうしているうちに、俺は白ひげ海賊団の仲間になり、ようやく#name1#がいない日常にも馴れてきた頃、何となく空を見上げると、ニュースクーと普通のカモメの群れに混ざって、1羽だけ妙に大きな鳥がいることに気付いた。
何の鳥だろうかとよく目を凝らして見ていれば、その鳥は白鳥で、どんどんこちらに近付いて来ているようだった。
「……おいおい」
どんどんこちらに近付く白鳥に、まさかこのまま俺にぶつかる気だろうかと思い始めたとき、大きく羽を広げた白鳥は、ゆっくりと船の甲板に降り立ち、好奇心から集まってくる白ひげ海賊団のいるなかで、みるみる人の姿に変わっていった。
「よう、久しぶりだな。エース!」
突然姿を変えた白鳥に警戒心を露にしている白ひげ海賊団のクルー達をものともせず、笑顔で駆け寄って来た#name1#に、俺の目は点になった。
「……は?#name1#?」
「俺今さ、新聞配達の仕事してんだ。それで、新聞をニュースクー達と配達してる途中に、エースの姿が見えたもんだから、懐かしくなってちょっと挨拶しに寄らせてもらったんだ。
なんだ?どうした?鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔してるぞ?」
ケラケラ笑う#name1#に、白ひげ海賊団に入る以前から俺の船で働いていた昔馴染みのクルーが、#name1#に抱きつく様にして後ろから覆い被さった。
「よう、#name1#!久しぶりだな!お前いつの間に悪魔の実を食ったんだ?」
「よう、ハープ、久しぶりだな!つい最近だ。変なおっさんがやるって言うから、取り敢えず食ってみたらまぁ、不味いのなんのって。次の日目が覚めたら人間やめてて、あの時はそりゃもう焦ったぜ」
「迂闊に食うなよ、そんなもんをさー」
「いや、折角くれたんだし、食べないとなんか悪い気がしたんだよ」
「それにしても、白鳥になる悪魔の実か?あんまり格好良いとは言いがたいな。これが女の子ならまた夢のある話なんだろうが、野郎じゃあなぁ……」
「別に格好良くなくていいし、野郎に夢を与える気もねェよ。それにこうして働き口も見つけたんだ。結果オーライだろ」
驚いている俺をおいてけぼりにして繰り広げられてゆく会話を、呆然と眺めていると、#name1#が突然こちらにくるりと顔を向け「な?エースもそう思うだろう?」と話しかけてきた。
「あ、ああ、そうだな」
慌てて相づちを打つ俺に、#name1#はにかりと笑みを浮かべた。
「やっぱりエースはわかってるな。あ、悪い、俺仕事の途中だから、もう行くな。またな」
「あ、なぁおい」
「ん?」
また白鳥の姿になろうとしている#name1#を呼び止めれば、#name1#は不思議そうに首を傾げてこちらを見た。
「白ひげ海賊団に入る気はないか?」
馴れてきたとはいえ、やっぱり#name1#のいない日常は少し寂しい。また一緒に航海をして楽しかったあの頃に戻れないだろうかと思い、#name1#にそう提案すれば、#name1#は困った様な笑みを浮かべた。
「前にも言っただろう?俺は弱いから、お前と一緒にいると足手まといになるって。おまけに俺が食べた悪魔の実は、白鳥になるやつで、戦闘向きとは思えない。悪いがお前の役にはたちそうに無いんだ」
「……別に、俺の役に立たなくても良いじゃねェか」
「お前が良くても俺が良くない」
拗ねたように反論したおれに、#name1#はそう言うと、「それじゃ、もう行くな」と言ってくるりと向きを変えた。
「じゃあ、せめてこれ、持ってろよ」
そう言って俺はビブルカードの切れ端を手渡した。
「おう、ありがとう。じゃあ、これでいつでもエースに会いに行けるな」
#name1#はそう言って白鳥の姿になると、今度こそ飛び立って行ってしまった。
それから1ヶ月とたたずに姿を現した#name1#は、また少し話をすると、あっさりと家に帰って行き、それを何度か繰り返しているうちに、気付けば、マルコには新聞を、ビスタには紅茶の茶葉を、サッチには海ではなかなか取れない山菜を、イゾウとハルタには銃や刀の情報誌をという具合に、明らかに新聞配達とは別の仕事を請け負っているようだった。
よく見れば、他のクルー達が家族に宛てた手紙なんかも届けているようだし、文句はないのかと問えば、「こうしてエースの顔を定期的に見に来る理由が出来たんだ。別に文句なんてねぇよ」と#name1#はのんびりと答えた。
そこまでして俺の事が心配なら、もういっそ白ひげ海賊団に入ってしまえばいいのにと思ったが、それを言えば、また以前の様に断られるのだろうなと思い、口をつぐむことにした。
取り敢えず、今はこうして#name1#の姿を定期的に見れる事に満足することにして、仲間に誘うのは、こいつが心配しなくても良いくらい強くなってからにしようと決めた。
「どうした?」
不思議そうに尋ねて来た#name1#に、俺は「なんでもねェよ」と答えた。



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