ある、蒼い満月が煌々と輝く夜の事。

「そこの妖怪、速度違反だ。気をつけろ」

ピピーッと笛を鳴らして、黒羽丸は夜の空中散歩をしていた蛇妖怪を注意した。
この空域において本家の三羽鴉(長男)を知らぬ者などほぼいないために、いらぬトラブルを招く事もない。
そして彼が融通の効かない性格である事も知られているので、蛇妖怪の方も運が悪いと思って大人しくスピードを緩めた。

「・・・本家の烏天狗というのは、斯様な真似までするんですね」

黒羽丸の背後から、不意に女の声がした。
振り返ると、黒い髪と黒い瞳に鎧姿の自分とは対象的な少女の姿があった。

薄い紗織りの布で隠してはいるが、その髪は白く瞳は赤い。
山吹と生成りの市松模様の地に、藤の花があしらわれた着物。
山吹色の帯に銀と藤色の組み紐でされた帯締め。
その背中からは、月明かりを受けて蒼白くなった翼が生えている。

牛鬼組組員にして本家預かりの少女、「捩眼山の白夜叉姫」の異名を持つ烏天狗・なまえである。

「お前は確かーーーなまえか」

はい、と言って薄布を被った少女はちらりと笑った。

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