「ーーーでは、黒羽丸様は率先して妖怪達の取り締まりを?」
「ああ、そういった者は必要だからな」
夜の公園。
人っ子一人ない場所というのは、『見られない』からこそ妖怪が集まる。
黒羽丸となまえはベンチに座って、寂れた自販機で買った缶ジュース(黒羽丸→コーヒー、なまえ→緑茶)を飲みながら話をしていた。
二人の目の前を、ゆったりとした動きで鬼火が横切っていく。
ちなみに、なまえは缶の開け方が分からなかったので黒羽丸に開けてもらった。
「人間の技術って、いつの間にかこんなモノを作れるようになったんですね」
緑茶を飲みつつ継ぎ目を捜して缶をぺたぺたと触るなまえに、黒羽丸は「そなたは山の外に出た事がなかったのか?」と聞いた。
黒羽丸は、妹のささ美から彼女の体質と身の上話を聞いていた。
だが、あまりにも世間ずれしている彼女に、つい言ってしまったのだ。
「はい・・・私の身体は日の光に耐えられないので、山からは出た事がないんです。少なくとも私が幼かった頃、山から夜が明けるまでに帰れる範囲で夜にも何かできる場所はなかったですし、そういった場所ができた頃には日光浴と同じ位、外に出る事を諦めていました」
それなりに重い話なのだが、語るなまえの表情に翳りはない。
「・・・それは、済まない事を聞いた。それと、ささ美から聞いたのだが・・・その・・・」
黒羽丸が口ごもったが、なまえはからりと笑って
「私が、二親に捨てられたって事ですか?」
と彼がごまかしていた事をはっきりと告げた。
「ああ、そうだが・・・なまえ、お前は『家族』をどう思う?」
なまえは布を取らずにいるので、感情は口元からしか判断できない。
そしてその唇は、にこりと笑っていた。
笑みに籠められた感情は、読みとれない。
「父様(ととさま)母様(たたさま)と言われた所で、今一つぴんと来ません。ですがやはり、世間様で言う『親』に一番近いのは牛鬼様ですね」
「では、牛鬼殿の謀反に加担したのは・・・」
黒羽丸は分からなかった。
どうしてなまえは、同族でもなければ血の繋がりもない牛鬼に附いたのか。
その器に惚れ込んで。
主と仰ぐから。
それらの理由なら、妖怪任侠の世界では珍しくない。
黒羽丸の父・烏天狗もそうして総大将ぬらりひょんについて来たのだ。
だが、彼女の理由はそれとは違う気がした。
だから、聞いてみた。
「私にとって、『家族』といえばやはり牛鬼組の皆です。
私を見つけてくれた『兄』達・・・牛頭と馬頭。
私をかわいがってくれた『姉』達は、濡れ女や磯女。
牛鬼達は、私の遊び相手」
楽しそうにくるりと回って、彼女は両手を広げてみせた。
黒羽丸は、彼女の気持ちが何となく分かる気がした。
血の繋がりの『家族』が分からないので、本当は彼女の方が年上という可能性もあるのだが。
「私には血の繋がりの『家族』がない。けど、私には牛鬼組という家族がいる。そして『兄』達も本家にいる・・・だから、私は捩眼山から遠く離れたこの本家でも、笑っていられる」
「そうか・・・なら、よかった」
黒羽丸は飲み終えた缶コーヒーをゴミ箱に捨てると、「飲み終えた缶は、ここに捨てろ」と言った。
「えっと、それ、何ですか?」
「ゴミ箱だ。缶専用のな」
へぇ、と感心した様子で、飲み終えていたらしいなまえはやや遠い位置から缶を見事に投げ入れた。
「その割には、缶以外の物も捨てられちゃってますが」
『缶専用』と書かれたゴミ箱には、紙屑や割り箸が押し込められている。
「人間が決めておきながら、人間に守る気はないらしい。尤も、その人間によりけりだがな」
なまえは「人間って変ですね」と言ってベンチに腰かけた。
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