後には引けない

 爽やかな朝だった。それにつられてか、気怠いはずの身体が起き抜けだというのに何故か軽く感じた。
 世の中の人たちは皆平然とした顔で生きているのだからこんなものなのか、と妙な感心と共に昨晩の情事の形跡に時折羞恥に苛まれながら、いそいそと支度を始めたのだった。
「おはようございます」
 教室に入り、いつものように声をかけた私に既に揃った面々は一斉に固まった。
「は?」
「え……?」
 突然そんな化け物を見たような顔で「は?」と言われても、反応に困るのだけど……
 入り口から一歩踏み入れたところで立ち尽くすしかない私に、一拍置いて皆口々に騒ぎ出す。
「何なのその呪力‼」
「呪力というか、呪いそのもの……?」
「えっ、もしかしてまたアイツ何かやった⁈」
「いや〜これまた盛大に呪われたねぇ!」
 何のことを言われているのか分からないままさらに困惑を極めていると、一人だけ腹を抱えて「そう来たか」と笑っている五条さんが目尻に滲んだ涙を拭って告げた。
「それが君たちの選んだ地獄か」
 ちょっと待ってほしい。理解が追いついていない人間を一人だけ仲間外れにしたまま、そんな挑戦的な視線を向けられてもどうすることもできないのに。
 そう慌てる私をよそに、虎杖くんの頬の上で宿儺さまがその混沌を愉しむかのように「ケヒッ」と笑い声を零したのだった。


永遠に白線