そばにいるよ #01


荒北靖友の幼馴染みである折原律という女子は、とにかく泣き虫だった。

転んでは泣き、虫が出ては泣き、寝るときに部屋の電気を消しては暗いと言って泣く。けれども一番彼女を泣かせていたのは近所の男の子達のからかいだった。

母方の祖母が北欧系だかどこだかの外国人だった彼女は、優勢遺伝子の賜物か、物心つく頃には靖友よりも背が高く子供特有の脂肪のついた体躯は縦にも横にも大きかったのである。白ブタだのプロレスラーだのと心にもないことを言われた日には、泣きながら靖友のシャツを掴んで下校の途につくこともしばしばであった。

中学校に上がるとき、少しは環境も変わるから私頑張るね。と期待に胸を膨らませていた彼女だったがしかし、同じ学区内からの持ち上がりのため、からかいは収まることがなく、むしろ他の小学校から上がってきた男子も加わって虐めへと発展していったのである。

相変わらず泣きながら靖友のシャツを掴んで歩く律を、時には面倒くさいと思いつつそれでも自分が側に居てやらなければと思う靖友であった。

そんな靖友にも子供ながらに人生の岐路とも言うべき不幸が降りかかる。小学校から始めた野球でピッチャーとして活躍をしていた中学二年、大事な試合の前に肘を故障したのだ。手術を受けリハビリをしたが選手としての道は断たれ、靖友の野球人生は呆気なく幕を閉じてしまったのである。腫れ物にでも触るようなチームメイトや級友達に苛立ちを隠せず、次第に靖友は学校で浮いた存在になりつつあった。

そんなわけで、全く学区の違う高校を目指した律と、野球部の無い高校を目指した靖友は、手に手を取って箱根学園の受験に踏み切ったのである。


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