過去形にしてなんて言えなくて




気持ちを「過去形」にするのはとても難しいことだと思う。


特に現在進行形で動いている気持を、急に「過去形」にしましょうなんて土台無理な話だ。そんなことは、重々解っている。何せ俺もこの現在進行形を過去形になんてできないでいるのだから。
俺もwasとかwereで過去形になれたらええんになぁ、と何度も思っているものの過去形になれるはずもなく今に至る。

いつからこんな気持ちを抱えているのかもはや思い出せないが、彼女が俺に振り向かないというままならない状況はしばらく続いている。

好きな気持ちをいっそ忘れてしまいたい。
思ってみたところでどうにもならない。
感情を持って生まれてきた以上、仕方のない話なのだろう。

然しながら…と考えながら彼女に目を向けると、今日もそれはまあ浮かない顔をしている。
そんな彼女の顔を見るたびに、いつまでそんな関係を続けるつもりなんだろうと思ってしまう。
そこに気持ちはないのに、崩れないように壊れないように、”無いのも”を守るのもどうなのか。

”なあ、いつまで付き合うとるん? そろそろ俺に変えへん?”

その一言が出たらいいのに。
結局守っているのは「空白」で、残ったそれは「依存症」で……単なるオママゴトを続けているようにしか見えないのだ。だからと言って恋人として接してきたこの1年半を捨ててしまうのが、とても難しいことだというのもよく解る。
一緒に歩いてきた時間が邪魔をして、どうしても都合の良い空想を押し付けて、今の状況から目を逸らさせてしまうのだろう。

でも、目を逸らして現実を見えないフリはして欲しくない。別に無理に前を向けだなんて言ってない。ただ、後ろを向きすぎてそこに囚われたらアウトやとは思う。
別に想い出は消えないし、愛しく思われた日々は悔しいけど消えはしない。彼女が覚えてる限り消えないし…消さない、だろう。

だからこそ、過去形にしろと言っている、つもりなのに。ボキャブラリーが足らなくて、愛しいあの子に俺の言葉は届かへん。ああ、もどかしい。もどかしゅうて堪らんわ。


なあ、ほんまは美月も気づいとるんやろ?

――アイツの隣に居るんは、もう他の女やて。


*****


ふと美月の方を向いたら久々にメールが来たって、ものすごく喜んでいた。なあ、その返事は何週間ぶりに来たん?俺なら返信待たせたりせえへんのに。
でもそんなことを言って美月を困らせたくないから俺はいつも、

「良かったやん」

と笑うことしか出来ない。

届かない想いは何処へ行くんだろうか。
いつかこれも「過去形」として処理できるようになるのだろうか。遠いいつかに願掛けをする気にもなれず、俺は今日も現在進行形を大切に心にしまった。


過去形にしてなんて言えなくて

(届かへんのならいっそ)
(俺の気持ちまで過去形になればええのに)






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