藤宮司はボーダー隊員であるが、通常任務のみの隊員や職員でその存在を知っている者はあまりいない。本部ですれ違っても、数あるボーダー職員のひとりとして認識され、フルネームで名前を言える人は少ないだろう。
理由は簡単。藤宮の活動時間が夜間のみだからだ。
それでも藤宮は決して無名でも、知り合いがいない訳でもなく、噂が噂を呼び、朝や昼前にその姿を見てみようとする人も少なくない。
夜間の防衛任務は大学生や大人を中心とした年齢が高い隊員を中心にローテーションで行っているが、藤宮はチームを持たず、ほぼ全ての夜間防衛任務に単独で参加している。
いつだったか、太刀川が藤宮に「昼夜逆転してたら友達いねーんじゃないの」と疑問ではなく、からかいの意味を込めて聞いたことがあったが、藤宮は「それで学生の負担が少しでも減るならいいと勝手に思ってるだけだよ」と軽く流していた。
太刀川は一瞬優しいやつだな、なんて思ったがそういえば藤宮は高校生の頃から夜間任務に積極的に参加していたし、大学生になってもそれは変わってなかった、と気づいてしまったので、現在の藤宮をただのお人好しとしか思えなくなってしまっていた。
ちなみに藤宮の学生時代のあだ名は『うさぎちゃん』である。
寝ていないが故の目の充血で、『真っ赤な目をしたうさぎちゃん』となっていただけなのだが、それを毎回毎回心配したのは来馬と風間くらいであって、あとの人々は歳上の藤宮に対しても「寝ろ」と頭を叩いてくるくらいだ。そもそもうさぎの目が赤いのは特定の個体だけであり、全てのうさぎの目が赤いわけではないのだが、何故うさぎ目は赤いと認識が広まったのか、それは誰にも分からない。
現在、大学を無事に卒業した藤宮はボーダーに就職し、昼夜逆転はしているものの、睡眠時間を手にしたのだ。
revision 20160212