落下の衝撃を抑えるため、階段状に敷いたグラスホッパーを足場に藤宮は空をスキップするように駆け抜けていた。

いつものように屋根の上をかけぬけて最短距離を目指そうとしても、建物が半壊している今の状況では足場が足りず時間がかかる。

藤宮は今まで移動に困ったことはなかったが、このような戦場でのグラスホッパーの有用性に今後の戦術の幅が広がりを感じると共に、あの日と同じようなこの光景を二度と見たくないと心から思った。

狂いなく空に展開されたグラスホッパーの下に見えるのは壊れた建物や転がるトリオンキューブ。

ラービットから逃げる下級隊員を空からアステロイドで援護しつつ、本部から送られてきた地点へと走る。

本部に乗り込んできたあの近世民のブラックトリガーを取り返すことができなかった。その悔しさが胸を締め付ける。

交渉など試みずにもっと迅速に行動すべきだった。ブラックトリガーは持つべき人にこそ持っていてもらいたい。だから風刃も……。

頭で考えても後悔ばかりで何も変わらない自身が歯がゆくて仕方がない。しかし今は敵のブラックトリガーよりは出水を優先しよう。そう決めて扱いに慣れてきたグラスホッパーの展開スピードをさらに上げた。

出水が見えたところで、黒いマントの男が出水に一斉攻撃を行った。ここからでは出水へのガードは間に合わない。

「出水!」

「藤宮さん!」

「無駄骨だったが健闘したな、玄界の射手」

せめて技の威力を減らせたらと敵の背後へ全力のアステロイドを向けたとほぼ同時に出水がベイルアウトした。

出水のベイルアウトを見送った近界民が振り返り、藤宮を見て少しだけ目を見開く。

「お前、ヒエラクスか?」

「え、」

キラリと光る藤宮の瞳が、翻る黒いマントに合わせるように微かに揺れた。

20210221



夜の鷹
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