村上鋼と赤いリボン

女の子とは何が好きなのだろう?

村上鋼は数日前からずっとこのことを考えていた。本当は自分だけで考えたかったのだが、仕方ない。時間がないのだ。答えが出ないまま葵の誕生日前日になってしまった自分が悪い。

鈴鳴支部で来馬先輩と今を一緒に待っている太一に、女の子の好きなものは何だと思うか聞いてみると太一はふむ、とわざとらしく顎に手を当ててから口を開いた。

「それって葵ちゃんの誕生日プレゼントのことですよね? それなら女の子の好きなものより葵ちゃんの好きなものの方が良くないですか?」
「太一は何か決めたのか?」
「おれはスケッチブックと色鉛筆です!」

ふふんと胸を張っている姿はさながら、おれすごいでしょう!と言っているようで少し落ち込んだ。

確かに葵は先日、待機時間に絵を描いていたが、それをプレゼントに結びつける思考が自分にはなかった。その時は絵を描くのも好きなのかと自分の中で勝手に終わらせ、太一は何を描いているのかと明るく聞いていたが、オレは見守るだけだった。そんなオレにも笑顔を見せて話しかけてくれるのはありがたいのだが、うまく言葉が出なくて申し訳ない。

思い出してひとり落ち込んでいると来馬先輩たちがやって来て話題は誕生日プレゼントの話になった。

「俺は図書カードだよ。好きな本を買って欲しいなって思って」
「私は当日の料理とケーキ。あと可愛いペンケースを買ったわ」

被らないようにまたプレゼントを考えていると太一が手の上に赤いリボンをのせてきた。

「これ、プレゼントのラッピングで余ったやつですが、鋼さんにあげます! これつけて自分がプレゼントでよくないですか?」
「いや……それはないだろ……」

渡されたリボンを見ているとオレがつけているより葵がつけている方が似合うと思った。

◇◆◇

当日、来馬隊は朝から葵が来る前に素早くパーティーの準備を進めていた。学校はボーダーの仕事だと言って欠席したのだが、これも立派なボーダーの仕事である。実際月末の鈴鳴支部の施設管理費等に関する書類を提出する為に備蓄の棚卸しや設備点検をしなくてはならないので休みが取れる。それをうまく利用しているのが来馬隊である。書類は数日間を使い徐々に終わらせておいたので問題はない。部屋には美味しい食事の香りと甘いケーキの香りが広がって、幸せな空間が出来上がっていた。

学校が終わる時間、制服のまま鈴鳴支部に帰って来た葵を迎えると、とても嬉しそうに笑ってくれた。

今が運んできたケーキは綺麗にデコレーションがされていて、お祝いの歌からろうそくを吹き消すまでの恒例行事を終えると、食事の前にプレゼント交換を行うことになった。

それぞれのプレゼントを嬉しそうに受け取っている葵を見るだけでオレも嬉しくなってくる。きっとみんなもそう思っているのだろう。

「葵」
「はい!」
「誕生日おめでとう」

太一からのプレゼントを貰って礼を言っている葵に声をかけ、振り返った腕に抱きしめられていたスケッチブックと色鉛筆の上にオレのプレゼントをのせた。

小さなラッピングに少し驚いたのか、少し目を丸くした後で腕の中にあったプレゼントを慌てて全て机の上にのせ、オレからのプレゼントを持って「開けていいですか?」と尋ねてきたので承諾すると葵はとても丁寧に包装紙を開いた。

「わぁ! かわいい!」

村上先輩からのプレゼントを開けるとスルリと中から出てきたのは赤いリボンのヘアピンで、リボンの右端が少しだけ長かった。

「これ、もしかしてラッピングもヘアピンも手作りですか?」
「綺麗にできなくてごめん」
「い、いえ! そういう意味ではないんです! とっても嬉しいです!」

黒いヘアピンに赤いリボンが糸で綺麗に縫い付けてあり、リボン自体も解けないように糸で中心が固定してあった。何より手作りであることがとても嬉しい。

「本当は何が良いのか分からなくてみんなに相談したら太一がこのリボンをくれたから、葵に似合うと思ったんだ」
「そうだったんですね! 先輩からおめでとうと言ってもらえるだけでも嬉しいのに!」

先輩の手作りのものがプレゼントなんて思ってもみなかったので、嬉しさと同時に恥ずかしさが募ってきた。これを作ってる時に先輩は何を考えていたのだろう。

顔が赤くなってくる感覚に気づいて下を向くと、太一くんにヘアピンを取られてしまった。

「鋼先輩せっかくおれが先輩の為にリボンあげたのに! プレゼントはおれだー! って言っちゃえば良かったんですよ!」

そう言いながらヘアピンを村上先輩に付けた。

先輩の頭の上にのったリボンはなんだか可愛くて思わず笑顔になる。

「先輩かわいいです!」
「いや、葵の方が可愛い」

先輩の指が私の髪に触れてリボンが移動した。触れた部分が熱を帯び、私の鼓動を早くする。

「おめでとう」
「ありがとうございます!」

また来年も鈴鳴支部で誕生日が迎えられますように。

20150930 For Yukinari



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