心配症の村上鋼
また鋼がきょろきょろしてる。
その様子を来馬は本を読みながら見ているのだが、鋼はその場でくるりと回ってみたり、ちょっとキッチンを覗いてみたり、少しだけつま先立ちになって遠くを見てみたり。それでもリビングからは動こうとしないので見ていてちょっとだけ可愛かったりする。ここでつま先立ちになっても見える景色は変わらないでしょ?
「鋼、葵ちゃんなら本部にいるお友達に会いにちょっと出掛けただけだよ。お昼になったら帰ってくるって言ってたし昼食はみんなで食べよ?」
「あ、はい。分かってるんですが落ち着かなくて」
「きっともうすぐ帰ってくるよ」
その言葉を聞いて鋼はストンとソファに腰を下ろしたのだが、やっぱり落ち着いてはいなかった。
いつものことではあったけれど、いつも通り寂しそうな顔をしているので温かいココアでもつくろう。自分の飲んでいたコーヒーも丁度おかわりが欲しくなったし少し多めに牛乳を温めてカフェオレにするのもいいかもしれない。
キッチンに向かおうとソファから立ち上がると鋼がこちらをチラリと見る。
「鋼も飲むよね?」
カップを振って見せると鋼の目元が少しだけ緩んだ。こくりと小さく頷いた鋼に「どこにも行かないよ」なんて言っても無自覚だから分からないんだろうな。
コトコトと牛乳をミルクパンで温めながら、自分のカップにインスタントコーヒーの粉を入れて、鋼のカップにココアの粉を入れようとしたところでコトリとリビングから音が聞こえた。気になってキッチンから覗いて見ると、鋼が窓の外をじっと見ている。
傍にいるのが当たり前になりすぎて、大切になりすぎて、ふと自分の傍から離れると不安になる。そんなところだろう。
昔から友達が鋼の元を去ってばかりだったから尚更なのかもしれない。荒船くんが攻撃手から狙撃手に転向した時もそうだったけど、ひとりで抱え込んで欲しくないな。本当に大切な人のこととなると自分のことよりも相手のことを優先してしまうのは鋼の良いところでもあり、悪いところでもある。
そんな事を思っているとぴくりと鋼が背筋を伸ばした。横顔しか見えなかったけれど眉も目尻も下がっていて、窓の外から見える人がとても愛しいと物語っている。
いつもより少し大きな歩幅で玄関へ向かう鋼は至極嬉しそうだ。玄関が見える扉から顔を覗かせて今か今かと玄関が開くのを待っている。
「ただいまー!」
「おかえり」
ほらね、すぐに帰ってくるって行ったでしょ?
「おかえり、ホットミルクにする? それともココアにする?」
「ココアがいいです!」
20151013 For Yukinari