安心の味
リクエスト:サイハテ主と東春秋でホワイトデー
ホワイトデーがやってきたが、バレンタインデーは友人から義理チョコを貰ったのみで、何故か男の後輩からのものもあったが、お返しとして全て有名な銘柄のチョコレートを買って渡しておいたので良いとしよう。
全員分のお返しを終えて通路を歩いていると、前からこちらに素早く歩いてくる由紀が見えた。
ここで走らないところが由紀らしいのか、走ったら俺に怒られると瞬時に理解したのか。それでもちょこちょこと足を動かす由紀の姿は贔屓目だと言われても可愛いものである。
「こんにちは師匠!」
「こんにちは由紀」
「師匠! これどうぞ!」
差し出された白い正方形の箱に水色の綺麗なリボンが付けられていた。
「ホワイトデーですので!」
「いや、俺バレンタインに何かしたか?」
「え? してないですよ?」
さらりと言ってのける由紀の顔を見ながら頭に疑問符が浮かぶ。
「俺に?」
「はい!」
にこにこと笑う由紀は可愛いが、何故俺にという疑問は拭えない。
「バレンタインに渡すと、師匠は絶対にお返しを用意すると思ったので、バレンタインではなく、ホワイトデーにしました!」
ああ、そういうことか。本当はバレンタインに何かを渡したかったのかもしれないという思考はこの際おいておくことにして、お返しまで考えていたとは驚いた。
この子は計画性があるのかないのか。普段は何も考えていないだろうが、いざ何か事を成そうとするときには人一倍考えている気がする。
「とりあえずラウンジ行くか?」
「はい!」
このまま立ち話をするのも良くないだろうとラウンジを提案すると、良い返事の後でついてきてくれた。
適当なボックス席を選んで座ると由紀も俺の前に座る。
「で、師匠はバレンタインのお返し終わったんですか?」
「俺か? いただいたものは返しただけだが、俺が貰ってること前提なんだな」
「当たり前じゃないですか! 師匠がチョコゼロなんてありえないですよ!」
「そ、そうか……」
あまりにもきっぱりと言い張るので気圧されてしまったが、由紀の中での俺は一体どのような位置づけをされているのだろうか。
由紀は、と尋ねると、学校で女の子からもらった3個と、母親から1個で、計4個でしたと悔しそうに唇軽く噛みながら言った。
「聞いてください!」
「なんだ?」
「学校帰りに荒船先輩に会ったんですけどね! すごい量のチョコ貰ってたんですよ! ずるくないですか! 奈良坂先輩も! 辻先輩も! 辻先輩なんてロッカーと下駄箱が雪崩になってたって犬飼先輩に聞きました! その犬飼先輩もたくさん貰ってたし!」
俺もたくさんチョコ食べたかった! と続ける由紀は恋色沙汰よりも食欲優先なのだろう。確かに甘いものが好きなことは知っていたが、チョコも好きだったのか。
「由紀は進学校だったんだな」
「そうですよ!」
「意外だった」
「えっ……!」
中学生と高校生だからこその年齢差に接点を見つけることができず、何故荒船と仲が良いかと疑問に思っていたので、その点については納得なのだが、由紀は普通校だと思っていたので、意外、という言葉がとても当てはまる。そうか、後輩だったのか。
「俺、勉強頑張ってるんですよ!」
「それはいいことだが、ゲーム好きって言ってたじゃないか」
「それはそれ! これはこれです! 師匠が『将来のために教養を身につけておけよ』と言ったので!」
また俺か。由紀はどれほど俺に影響されればいいんだとは思うが、勉強をすることは良いことだし、やめろとは言えない。それでもあまり影響されすぎるのも良くない気がする。
どうしたものか。
「あっ! 師匠! 聞くの忘れてましたが、キャラメル大丈夫でしたか?」
「キャラメル? ああ、この箱の中身か? 嫌いじゃないぞ」
「良かった!」
にこにこと笑う由紀の視線は真っ直ぐ箱に向いていて、何を言いたいのか何となく分かってしまう俺も俺だ。
「……、食うか?」
「はい!」
リボンを解いて箱を開けると、少しだけシンプルな包装に包まれたキャラメルが数個見えた。
「ほら、口開けろ」
包装から出したキャラメルを口の中に入れてやると、とても幸せそうにもぐもぐ食べる由紀がとても可愛かった。
20160315 For Nini
リクエストはプレゼントに意味を込めて、でしたので、キャラメルにしました。
キャラメルの意味は『一緒にいると安心する』だそうです。可愛い。
遅くなりましてすみません!リクエストありがとうございました!