明日は隣に

烏野高校、西谷夕が通っている高校。

中学生の頃に千鳥山へ転校して来た篠岡に友人がいるはずもなく、自ら話しかけるような性格でもなかったため、本とピアノが友達だった。

夕方に近づいた空にチャイムが鳴り響き、いつも通り部活へ赴く生徒や教室に残り雑談をする生徒を視界の端に捉えながらも挨拶はせず、バッグを持って立ち上がる。

賑やかで明るい声は自分には無関係。そう思っていた。

昇降口が見えるほどの距離に差し掛かった時、目の前にコロコロとバレーボールが転がってきた。

「すいませーん!」

元気そうな声の主は乗降口からこちらに向かって走ってくる。

「いや、いいよ。バレー部?」
「はい! バレー好きなんですか!」
「うーん、楽しいとは思うよ」

篠岡のその返答を聞いて、西谷は小さくガッツポーズをして見せる。

「今ミニゲームやってるんですけど、人数がひとり足りなくて! 一緒にやりましょう!」
「俺と?」
「はい!」

篠岡をスポーツに誘う人は今までに居なかった。

東京にいた頃は篠岡がピアニストを目指していることを知っている人ばかりで、その大切な指を怪我させないようにと気を使われていると篠岡も知っていたので、その好意を無下にはしていない。

しかし、この時だけは何故か目の前の彼と遊びたかった。

「いいよ、やろうか」

これが篠岡と西谷の最初の出会い。

篠岡は走馬灯のように廻る記憶に流されながらもゆっくりと息を吐き、体育館2階、応援席からコートを見下ろす。

青葉城西でも烏野でもない応援席は予想以上に静かで、自分がどちらを応援していいのか、更に分からなくなった。


青城のピアニスト
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