大きな鞄と小さな鞄

『心臓の強度』の番外編
※安室さんは出てきません。名前と友人達の会話



90分、長かった。
今だかつて講義がこんなに長いと感じたことはなかった。
自分でもそわそわしているのがわかったし何度も時計を確認しては密かにため息をはいたものだ。

「じゃあ私はきょうはここで…」
講義が終わって30秒後、机の上に並べていた教科書を鞄にしまい立ち上がったときだった。
友達の一人に腕を掴まれる。
「ちょっと待って!もしかしてその鞄で行くつもりじゃないでしょうね!?」
すごい剣幕である。

「せっっっかく可愛いのにその鞄で台無しよ!男は鞄の大きい女に良いイメージ持たないんだから!」
そんなことはないだろうとは思うが、グループの中で一番モテている彼女が言うのだ。聞いていて損はない。
「私の鞄!貸してあげるから!今度から大学の後で会うときは鞄も気を付けなさいよ!」
彼女は手早く私の鞄から必要な物だけを入れ換える。
「いいこと?財布やスマホみたいな最低限の荷物だけ入るクラッチバックやショルダーバッグを持ってくること!教科書はサブバッグに入れるのよ。サブバッグは大学のロッカーに預けて次の日回収したらいいんだから。次の日が休みとかで心配なら駅のロッカーね。どっちにしても教科書やルーズリーフが全部入った無駄に大きくて無駄に重たい鞄はご法度よ!モテない!!」

もう一人の友人は嬉々として私のメイクを直す。
チークにはラメが入ったものを使って、唇はグロスで艶がでている。

「これで完璧!行ってらっしゃ〜い。良い報告、楽しみにしてるからね!」
授業が終わってから5分も経ってないうちに鞄は華奢でおしゃれなものになり、よれてしまったメイクも元通りになった。
ポアロまで30分ちょっと。余裕で間に合う。



いつも通っているポアロへの道でこんなに緊張して、でも期待に胸を膨らませたことなんてあっただろうか。

彼が私に構う意図はまだわからない、本当の彼は誰なのかまだわからない。
でも、そんな考えは必要なものだけを小さな鞄に入れ換えたときになくなってしまったらしい。

きょうは、きょうくらいは楽しもう。
嘘で着飾って、余計な考えは置いていって。
悩むのは友達に鞄を返してもらってからにしよう。