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からりと晴れた夕闇が怪しげな雰囲気を醸し出す、豪華絢爛を極めた王家の第一ホール。
明け方まで雨が降っていたせいか、今も少しだけ土の匂いがした。雨が降っているのを窓ガラスの向こうがにしか見ることがなくなって、そろそろ六年が経つ。母さんと別れて、もう、五年以上経っている。
母さんは本当に、どうしているのだろう。最近は手紙のやりとりもはじめの頃よりはだいぶ減って、それがなんだか私がこの生活に馴染み始めていることの象徴のように思われて泣きたくなった。
私がいなくなって、母さんは何を思っているのだろう。何をしているのだろう。新しい人と一緒になったのだろうか。その人はどんな人だろうか。私には、弟か妹が生まれただろうか。
手紙の中の母さんの日常は、本当に街に暮らしていたらこんなふうなのかもしれないとなんとなく思いを馳せるくらいには平凡なことばかりが書き綴られていた。もともと父に使えることの出来るくらいの家の出で、娼婦にしては学のある方だった母さんなのだから、もっと他に、出来ることだってあるだろうに、手紙の中では、父から貰っている金を使って辛うじて生活しているのだと切々と語られていた。
母さんらしくない。そう思い始めたのは多分、此処に来てから一年と少したった頃だった。幼い私はただ、それが私が母さんを忘れていることの何よりの証拠に思われて、それをそれ以上考えることをやめた。それかずっと、今に至るまで私は母さんの手紙について深く考えないことにしている。母さんが生きている。生きて、生活していて、私と繋がっている。それだけで十分だった。
出かける前に受け取って、まだ読んでいない母さんからの手紙を思い出す。簡素な白い便箋。妙に質の良い紙は、この家からの金で買ったのだろうか。
気になってたまらなかったが、中を見るのはこのパーティーが終わってからだ。
今日のパーティーは王子様の十歳の記念に行われるもので、それなりに権勢のある家の子供たちも当主たちも、皆出席して王子様を祝う。それがある種義務のようなものである。
祖母に連れられ、父と養母に連れられ、豪華な馬車に乗って訪れるのは、いつも目にする王宮だ。
きゅうきゅうと必要以上に腰を締め付けてくるコルセットが苦しくてたまらない。こんな子供の服にまでコルセットはつきものなのだから正直ちょっと、意味がわからない。コルセットは嫌いだ。
祖母が選んだ真っ赤なドレスは私に似合っているだろうか。ちょっとよく分からない。ただ、私の輝く銀色の髪や、薄青色の瞳の色、血のような赤は目に優しくない配色だと思う。
「リア」
名前を呼ばれて、振り返る。そこには、王子様とツバルさんが立っていた。相変わらず整いきったこれ以上ないくらい綺麗な顔をしていて、これを近くで眺めたいがために世の女性たちは奮闘しているのだなぁとなんとなく納得してしまった。王子様もツバルさんも、それくらいに綺麗だった。
「ルー様、ツバル様。こんばんは、お招きありがとうございます」
教えられたとおりに頭を下げて、鷹揚に王子様が頷くのを見て、少し安心した。私のこの言葉は間違いではなかったらしい。
別に久しぶりに会ったというわけでもない。つい、二三日前に顔を合わせたばかりである。それでも繰り返し顔を合わせる昔馴染みともなればそれなりに会話は弾む。王子様やツバルさんは気楽な私と違って、あちらこちらに挨拶に行かねばならないから、それこそギリギリのくらいまで何となく、私は二人……王子様を引き止めていた。
「じゃあ、そろそろ……」
王子様がそういった所で、何事か、子供たちの集まるテーブルのあたりから騒ぎが聞こえてくる。
「なんだ?」
王子様が訝しげに目を潜めた。

雨上がりのにおい