14
泣いて、半狂乱になった私は、それから腫れ物に触るようにメイドたちに世話されていた。父も養母も、顔も見せない。
家庭教師達はそれでもひっきりなしにやってくるから、やつれきってここ数週間だけで随分痩せた。
祖母を悔やむ言葉を届けてくれた王子様の手紙には、まだ返事を出せていない。とてもそんな余裕はなかった。頭がおかしくなりそうなのに、一向におかしくなってくれない私に嫌気がさして、高い窓から身を投げ出そうとしたことは一度や二度では無い。その度にメイドに押さえつけられて、力のない私は簡単に捕まってしまう。ただそう何度もそういったことをさせられないと思われたためか、いつの間にか部屋にはメイドが常に居て、私を見張っているようになった。
ぼんやりと部屋の中で息をして、ぼんやりと家庭教師に言われるがままに勉強し、ぼんやりと死んだような気持ちで、夏を越した。
父も養母も、一度も姿を見せることは無かったし、なにか言葉を届けるでもなく、ただ私の世界はこの自室それだけにすぼまっていった。
それが終わったのは、祖母の死んだ年の秋だった。
養母が懐妊したという知らせが屋敷中を飛び交って、私の元にも届けられた。
ふぅん、そう。
私はそれだけ言って、ぼんやりと外を見ていた。もう何もかもがどうでもよかった。
母さんの為だけに生きているつもりだった。母さんの為に、私はここにいるつもりだった。
祖母もいない。母さんもいない。養母は妊娠した。
私がここに居る意味は、果たして、なんなのだろう。
何もわからない。何もわかりたくなんかない。生きる希望を失ったとはこういう事だ。何に関しても無気力でやる気が起きない。ぼんやりと、狂ったように唇だけがへらへら笑う。
勝手に笑みを形作る唇が嫌いだ。
私は私の中の小さなオフィーリアが、息をしなくなっていくのを感じていた。
私の中の小さな子供は今この瞬間に、息絶えようとしている。私が死なないのは、多分、私の中の小さな私が、死んでいくから。二人は死なない。一人だけ、死んでいく。
心が死ぬとは、こういうことなのだ。私はそれをじっと感じていた。夜も昼も関係ない。ただじっと、ぼんやりと、窓際でへらへら笑いながら私が死んでいく様を、大人しく見ていた。
声をかけられたのは、何回太陽をが沈むのを見た頃だろうか。
今日も夜になる。私はもう、ずっと前に死んでしまった。
ぼんやりと窓の外を見ていると、メイドが静かに声をかけた。
「お嬢様、旦那様がいらっしゃっています」
そうして、のろのろと振り返ると許可も無いのに返事もしていないのに扉が勝手に開く。
この青色は、誰だ?
そう思って、もう一度男をじっと見て、私の父だと気が付いた。祖母の生きていた頃とはまるで違う、勢力に満ちたような見た目をしていた。
彼は私を見るとその窶れように驚いたのか、ちゃんと食事をしているのかと、今更のように気遣うような言葉を吐いた。
怒りも驚きもわかなかった。ただ、ぼんやりと父を見つめるだけの私に父は眉を下げ、あからさまに悲しそうな顔を浮かべて見せた。
「養生しなさい、来年には学園に入学するのだし、何より、お前はルーナ殿下の婚約者になるのだから」
ああ、これは、祖母のあの顔と同じだ。
跡継ぎの宛が見つかった途端に、これだ。
馬鹿みたいだ。
本当に、馬鹿みたいだ。