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王子様にはすごくすごく、とてつもなく、この上なく迷惑をかけている。
深い自覚があった。
「ルー様、ありがとうございます」
「いや、気にするな」
口下手な私に、王子様はやわらかく笑う。今日も目眩がするほど綺麗な顔をしていた。見惚れそうになって、思わず馬鹿じゃないのかと自重する。王子様が綺麗なのがすべて悪い。こんな美形はテレビや雑誌の中のモデルでもお目にかかれない。
私と王子様の婚約話は、私の醜態のせいで流れたりしなかった。王子様はあの話をすべて内密にしてくれて、二人だけの秘密だ、なんて言われてしまった。
これなんて乙女ゲーム。家に帰ってからそう思った。
祖母が死んでから私に対して妙に優しい父に聞いたところによると、祖母の喪が開けてから王家の人々、同じ王族分家の家々、それから上位貴族の一部にだけまず伝えられ、正式な発表は恐らく王子様が学園の中等部を卒業してからになるということである。
つまるところ今の段階は婚約者(未定)くらいだろうか。結婚の前段階の婚約の前段階ってちょっとよく分からない。流石上流階級、っていうことだろうか。
年が明けて暫くすると、学園に入学することになる私は所謂寮生になる。長期休暇の時は家に帰ってきなさいと言われているが、それ以外は実家の外で過ごすことになる。つまり父にも養母にも顔を合わせずに済むということである。
なんて素晴らしいのだと手放しで喜びたくなったが、学校生活の辛さというものを私は知っているから、なんの気兼ねもなしに喜べない。友達ができなかったらどうしよう、いじめられたらどうしよう。今から不安で押しつぶされそうでもあるが、それでも母さんが死んだと、喚いていたあの頃に比べれば随分よかった。
王子様に話を聞いて、辛かったなと、受け入れてもらえた為だろうか。彼は私を軽蔑なんかしなかった。大丈夫だと抱きしめて、頭を撫でてくれた。まるで子供をあやすようなその仕草に、なんでかものすごく、安心した。母さんのことを思い出していたのだと思う。
「来週にはリアも学園に入学するんだな」
「はい。どうなるのか不安ですが、やっぱり楽しみです」
今日は、王子様行きつけのお店に連れて行ってもらっている。毎度毎度王宮でしか顔を合わせないというのも婚約者として如何なものか……とは王妃様の言葉である。以外に庶民派でびっくりしたものだ。
しかし庶民派なんて言葉とは無縁の高級店には驚かされた。完全個室制。怖い。
豪華絢爛は義務と知っていても、やっぱり無駄遣いじゃないのかと恐ろしくなってしまうのはスラム育ちの性ゆえだ。
「そうか。リアにも良い友人ができるといいな」
「そうですね……出来たら、いいんですけど……ルー様もツバル様も学年が違いますから、親しい方が誰一人いらっしゃらないというのは緊張します」
俯いて、紅茶の水面を見つめる。
あの時よりは随分ふっくらとした、つまるところ痩せぎすから一般的な体型に戻った私の顔が見える。心配げに目を伏せる様子は見慣れたものだが、よくもまぁ数ヶ月でこんなにも元気になったものだと思う。まだ思い出してしまうと辛いが、記憶に蓋をしておけば日常生活にさわりは無い。
「まぁ、すぐに親しい友人はできるだろう。リアは愛想も悪くない」
「お世辞ですわ。私、結構人見知りです」
あの時彼に泣きついてよかったと思えることはほとんどないが、多分、距離が縮まったような気がする。屈託なく、彼を兄のように慕えるようになった。兄のように。婚約者に収まってしまう身としてはあまりに最終目標から遠いが、多分、まだこれで十分だ。私は今十二歳で、王子様もたった十三歳ぽっちなのだ。
にこやかに天使のような微笑みを浮かべる王子様に、そう思った。
そうだ、学園に入学したらあの藤色の令嬢とも知り合えるだろうか。どの家の令嬢かは知らないけれど、私とそう年は変わらないだろう。若しかしたら、王子様と同い年かもしれない。