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入学式。記憶の中の日本のそれとは全く違って、豪華絢爛を極めた、流石お金持ち学校と言わざるを得なかった。
荘厳な門を前に、頭おかしいと溜息をつきそうになる。そんなこと出来ないから既のところで飲み込んだが、それにしてもなんて豪華な学校。学生なんて所詮モラトリアム、それにこんなふうに奉仕するとは何事だろうか。
制服にしたってそうだ。基本の型が決まっていて、あとはアレンジ自由。生徒のセンスと財力をそのまま見た目に反映できるようになっているのである。当然してはならないことはあるけれど基本は自由。カーディガンやソックスを好きにしていいというので自由を謳っていた日本の高校とは大違いである。
どうしようもないくらい価値観が違う。
途方も無く高いその価値観はわからなくもないし、必要とあらば発揮できるし、そもそも私のそれだって多分スラムにいた頃とは比べ物にならないくらい上がっているのだけど、正直ドン引きである。
かくいう私の制服はすべて養母によって用意された。あの人がそんなことをしてくれるなんてついに世界が滅びるのかと思ったが、酷い格好をしてホルクハイマー、ひいては私の名前を汚されても困るので、という話だった。
一瞬だけ浮かんだ期待の念は、すべて消し去ってしまった。
養母が用意したと言っても、この子に似合うものを見繕っておいてね、なんて養母が言った、ただそれくらいだった。彼女自身が私にはこれが似合うかしら、こちらかしら、なんてふうにあれこれ考えてくれるはずがなかった。
変な期待をしてしまった自分が恥ずかしくなった。養母が、私に興味を抱くはずがないのだ。彼女の頭の中は今、腹の中の子の事でいっぱいだ。
隣国の王女だったという養母は誇り高く、気高く、私という妾腹の娘の存在を消して認めようとはしない。王子様の婚約者になろうとそれは変わらず、むしろホルクハイマー家を継がれずに済んでよかったくらいの事は思っていそうだ。
彼女は今臨月だ。もうすぐ、私の義弟か義妹が生まれてくる。それが、弟であったらいいのにと切に思ってしまう自分がいる。妹であったら、きっと、私は王子様の婚約者という立場を奪われてしまうのではないだろうか。王子様にとって必要なのが例えば私だと自惚れても、王家にとって必要なのは私ではなく、ホルクハイマー家の娘なのだ。
養子縁組なんかでなく、養母の血が入った実の娘だったのならなおのこと都合がいいだろう。義妹でなければいい。義弟であってほしい。そんなふうに思う私は、傍から見ればきっと滑稽なのだろう。
慣れても親しみの欠けらも無い実家からほとんど身一つで送り出されて、馬鹿みたいに広い講堂で入学式の、新入生代表のスピーチを聞いていた。
やる気に満ち満ちた様子の品の良さそうな、かつ熱血そうな男子生徒だった。
仲良くなれる子の一人くらいは、いるだろうか。王子様にはいつくらいに会いに行こうか。あの、藤色の令嬢はいらっしゃるだろうか。
きょろきょろ周りを見渡す勇気もなく、ぼんやりと話を聞きながらそう思う。一クラスの人数は四十人弱であり、私の記憶の中の学校と差異は無い。ただ、大きな違いはここが社交場のミニチュアであり、カリキュラムの中に魔法をくみこんでいることだろうか。
この世界にある魔法というのは、科学技術の代替的なものと考えても問題は無い。一人に一つだけ属性が決まっており、その属性というのはその人の過ごし方云々で変化する。ただ稀に、生まれつき属性の備わっている魔力の強い人がいて、そういう人は属性持ちとして敬われて、大切にされる傾向がある。
大まかな事は家庭教師に聞いていたし、さわりの方までは習っていた。私はこの魔法の実技が実に苦手だ。
これからの学校生活、避けられないカリキュラムの中で一番大きく厄介なそれ。
もともとの私の世界にそんなもの御伽噺としてしか存在しなかった為だろうか。多分、そうなのである。どうしようもなく苦手だった。家が、家名が、魔法を誇る家柄でなくて良かったと心の底から感謝したのは後にも先にもそれきりだと思う。