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入学してから二週間弱。未だにクラスでは腫れ物扱いを免れず、友達と呼べそうなのはマーガレットだけ。マリアベル様とはお話も出来ていない。クラスも違い、まだ合同授業のようなものもなく、マリアベル様にも彼女のお友達がいて、寮の食堂では時間が合わないのか顔を合わせたことがない。
王子様には、時間が合う日は夕食を一緒に食べようなんて約束こそしたものの、一度寮で簡単に挨拶をしただけで終わってしまった。彼はひどく人気者らしく、周囲のご令嬢たちの視線が本当に痛かった為だ。
部活動の説明を受けて、そういえば私はアンネマリーじゃない時には、文化部だったな、なんて思い出した。極力目立たないようにとその時から心がけていたような気がする。今はそんなこと無理らしく、歩くだけで注目を集める。そんなにここの生徒はストレスが溜まっているのか、それともいつかの夜会でマリアベル様を貶めようとして見事な反撃を食らっていたフランシア様のような人が溢れているのか。多分、両方。
今回も文化部に入ろうかと色々はり出されたチラシを見て回っているけれど、如何せん数は多く、唯一の友達マーガレットはテニス部である。案外行動的な彼女に人は見かけによらないという言葉を思い出させられる。
「それではわたくし、部活に行ってくるわね」
随分柔らかい口調で話すようになったマーガレットが教室を出ようとゆるゆると手を振る。それにぼんやりと手わ振り返しながらどうしたものかと考え込んだ。
実は王子様に、生徒会に誘われている。王子様直々に声をかけるなんて、とご令嬢が殺気立って隣にいたツバルさんがにっこり笑って……此処は乙女ゲームで私はヒロインかとつっこみたくなるようなやりとりをしているのである。
考えさせてください、と答えたのだが、どうしよう。定員はあと二人と言っていた。今年は王子様が会長で、生徒会には身分制限なるものがあるらしい。暗黙の了解として。
うんうん唸ってどうしようかなーとかなんとか思ってみたが、多分生徒会は無いだろう。目立ちたくない。
今私が目立ったら確実に面倒くさいことになる。腫れ物扱いがいじめられっ子にランクダウンしそうだ。それなら腫れ物扱いの方が遥かに良い。いじめられたくなんか無いし、貴族のお嬢様のいじめってこの上なく陰湿そうだ。嫌な噂なんて良いほうだろうし、直接的な暴力こそ少ないだろうが、ひそひそ罵倒される方が私は怖い。
今日にでも会えたら王子様に言おう。そうしよう。
何となくこの時間に、というような待ち合わせしかしていないので、私の夕食は基本一人だ。今までだってずっと一人きりなのだからそれ自体は苦痛ではないものの、周りの誰もが楽しそうに談笑しながら食べているのに私だけ一人きりというのは、存外辛い。王子様は生徒会長で、王子としての公務があって、忙しいのだ。あまり、会えない。彼の側近候補であるツバルさんも同様である。
荷物をまとめて、鞄を持ってからもう一度ポスターのもとへ向かうことにする。
あちらこちらによく分からない部活もあったりして、この学園は色々な意味で自由だと思わざるを得ない。流石金持ちの作る学校である。この学園に平民は数える程しか居らず、殆どがこの国の貴族で希に他国の貴族や王族も紛れている。養母は此処で父に出会い、婚約したらしい。
父に惚れ込んでいた養母がほとんど無理矢理に成立させた婚約だと聞いている。権力の無駄使いという奴だ。ただ、そんな夫婦仲だからだろう。私がここに生まれたことに何となく察しがついた。養母はそれはそれは面白くなかった事だろう。しかも、私の容姿は何処までも母さんに似ている。
スっと視線を目の前の掲示板に巡らせる。
別に部活動は強制ではないが、それでも私は何か入りたい。もしかしたらマーガレット以外に仲の良い子ができるかも、なんて打算的な考えもある。あれもこれもと欲張るのはよくないのかもしれない。ただ、学園の中のみという限られた期間であっても自分のことを自分で決められるだけの自由を手にして、私ははしゃいでいたのだ。
掲示板に指を滑らせて、ふとそれを止めたところで目に入ったのは、園芸部のポスターだった。

古ぼけたイニシアル