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寮の食堂と言っても、この寮は保護者が侯爵位以上の地位に着く者のみが入寮を許される場所であるので、寮生は他の寮と比べ、圧倒的に人数が少ない。広々としたそこに人はまばらであるが、それはこの人数の少ない寮の中でも特に少ないように思われた。王子様は人の視線を気にする私をはばかってくれたのかもしれない。
目の前の席に王子様、その隣にツバルさん。三人で夕食を食べている。
頭の中はこれからどうやって生徒会のことを切り出そうかというものでいっぱいだった。
私は園芸部に入部するつもりであり、生徒会に入る気は毛頭ない。そもそも幾ら婚約者とはいえ、まだそれは公には発表されていないのだし、貴族の中で周知の事実となっている私の生まれを考えるに今の身分にも関わらず身分制限の厳しい生徒会に入ると考えると反発が恐ろしいというのがある。
園芸部で、私は校舎裏の小さな花壇を好きに使っていいという立場に落ち着くことになった。あれから少しだけ自己紹介をしたところ、園芸部の少ない部員達とは何とか打ち解けられそうなのである。皆私の事を公爵令嬢で、王子様のはとこという身分を傘に来た嫌な令嬢なのではないかと思っていたりとか、私の生まれをはばかっていたりとか、したらしい。家名ではなく名前で呼んでほしいと私が言えば、なんとなく人柄を察してくれたらしく割合普通に話しができた。
腫れ物扱いではなく、普通に一年生の後輩、同級生として扱ってもらえそうなのである。何ていう幸運だろう。隣にいたケイト先輩と、普通にお話していたことが功を奏したのかもしれない。ケイト先輩には感謝してもしきれない。今度お礼を言っておこう。それに、庭師の息子だという彼ならきっと花の種や苗も喜んでくれるかもしれない。あまり豪勢なものは喜ばれないかもしれないから、出来る限り上質でシンプルなものにしよう。
私と同じ一年生の少女はキャシーという女の子で、どうやら最近貴族位を貰ったばかりの新興貴族の令嬢のようで、ホルクハイマーという家名に尻込みしていたらしい。しょうがないが、家のことを気にしないでほしいと言えば、曖昧に笑って、頷いてくれた。多分いい子なのだと思う。
そうして、いつもよりほんの少し遅く寮に帰ると丁度王子様とツバルさんに鉢合わせ、一緒に夕食をとっている、という事の次第である。
食べながら話をするのは得意ではないので、とにかく作法に気を使って静かに食事を済ませる。ちらりと伺った感じだと、王子様もツバルさんも私の倍近い量を食べていた。さすが、育ち盛りは違う。
「リア、」
食後のお茶を口にしながら、王子様が口を開いた。あれだけ食べたのにまだお茶を飲む余裕があるなんて、ちょっと驚いている。その細い体の何処にあの量の食事が収まっているのか。ツバルさんにも言えることである。
「何でしょう」
首を傾げてみた。久しぶりに王子様と一緒にいる。ちょっと私も、はしゃいでいるのかもしれない。
「お前は生徒会には入らないんだな」
「園芸部の事をお聞きになりました?」
「あぁ、彼処の副部長は隣室なんだ。先程ホルクハイマーの令嬢が入部予定だと態々伝えてくれた」
「まぁ、そうでしたか。えぇ、私は園芸部に入ろうかと思っていました。ですから、申し訳ないのですが生徒会の件は……」
「リアならそうだろうと思っていたさ。今日、他の候補を連れてくるよう生徒会員に頼んだところだ」
「ごめんなさい、ありがとうございます」
流石王子様。幼馴染を伊達にやっていない。私が目立つのを好まないと、よくよく分かっているらしい。
それにしても副部長……派手な部長の陰に隠れて目立たない男の人だったが、まさか王子様の隣室だったとは。名前も覚えていなくて申し訳ないが、つまるところそれなりの身分の子息ということである。要注意かもしれない。私の事を王子様に伝えるなんて、何だか王子様が私の保護者であるようだ。
父よりも、当然養母よりも、認めたくはないが母さんよりも、彼は私に近いのだから当然といえば当然なのかもしれない。
「良いんだ。お前が此処に馴染めそうで良かった」
「はい、園芸部の方達は本当にいい人ばかりで、クラスにいるよりも居心地が良くって、訪ねてよかったと思います」
にっこり、自然と顔が綻んだ。
良かった、と王子様も笑った。隣のツバルさんは終始口を挟まなかったが、それにしても何だかんだ別れ際に良かったですねと言ってくれたので、その日は気分よく眠りにつけた。これでマリアベル様とお話さえできたら、完璧なのに。