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遂に恐れていたことが起きてしまった。
生徒会に誘われたその日、寮で、私は顔を合わせたくなかった人物を今日のうちにコンプリートしてしまった。
目の前には少女がいる。優雅な動作で、極々少ない……私よりも少ない食事を綺麗に少しずつ、小さな口におさめている。
簡単に編み込まれた長い銀の髪は毛先が一つ二つ、くるりと綺麗にカールしており、食堂内の灯りを受けてきらきら虹色に輝いている。ふせられた瞳の色は青紫色。青薔薇の色と何度も評され、そして本人は自らの尊い血筋を証明するその色を何度も誇っていた。
小さな顔に行儀よく収まったパーツはどれも一級品で、少女の繊細な美貌を形作る。私の悪女顔とも、ヒロインの甘さ百パーセントの主人公顔とも違う。しかしそれと張るくらい整った美少女。肌の白は誰よりも際立ち、身につけるブラウスよりも白く見えるという恐ろしさ。それでも薔薇色に色づく頬と唇のおかげで不健康な印象も不気味さも無い。何処までも計算し尽くされた、儚さを詰め込んだかのような少女である。
そのとんでもなく整った美貌の少女は、私の目の前で優雅に夕食をとりつつ、ちらりとこちらを見た。
その目に浮かぶのは、甘い期待の眼差しだ。まるで、恋をしているかのような。
ん? なんか違う気がする。
今までとは明らかに違うその色に、私はどうしたものかと頭を巡らせることにした。ゲームともオートモード時ともあまりに異なりすぎていて、この少女は果たして別人かと疑うも、こんな美少女は恐らく他にはいないだろう。一クラス四十人、かける九しか、中等部に生徒はいない。
その中で私と同じ校章の色である一年生はたった百二十人、珍しい銀髪となると更に人数は消えて数人、そしてやはり珍しいパステルブルーにも見える瞳となると、たった一人きりである。
オフィーリア=ホルクハイマー。目の前の少女の名前である。
ゲームにおいて、マリアベルの取り巻きだった少女。その筆頭。
自らの実家はホルクハイマー公爵家という名家でこれは王家の分家でもある。爵位を持つ分家。つまるところ最強。テンペスト家にはまぁ及ばないんですけど、なんて言ってみたいところだがそれが言えないくらいの権力がある。マリアベルのライバルになっただろう少女である。ただ、ゲームにおいて彼女はその牙の一切をマリアベルに向けることは無かった。寧ろ全てをヒロインに向けた。
手始めに嫌な噂を流し、クラスでヒロインを孤立させ、頼れる人のいなくなったヒロインに攻略対象と他の女の子の親しげなところを見せて身分の違いを強調し、追い打ちのようにまだ可愛らしげな小さなものから命に関わる大袈裟なものまで、ありとあらゆる嫌がらせをする。具体的にいうと暗殺者をけしかけたり、暴漢にヒロインを襲わせたり、そしてこれが序の口に見えるような恐ろしい嫌がらせの数々である。ここまでやって自分は攻略対象を狙う所か手に入れる甘い蜜はすべてマリアベルに捧げ、最後はど安定に全てマリアベル様の命令でした、である。
雪の妖精のような儚げな顔をしてやることなすこと全てえげつない。天使のように微笑みながら当然のように他人を蹴落としていく。ファン達のあいだではオフィーリアラスボス説がまことしやかに囁かれていた。肝心なところに頭が回らずつめの甘い典型的な悪役令嬢マリアベルの参謀。それがホルクハイマー嬢である。
つまり、怖い。
これまでのオートモード時ならば、入学してから一週間程度で寮の食堂で顔を合わせる。そしてにこやかに微笑んだホルクハイマー嬢は、マリアベル様ですのね、平民に囲まれるこのような学園においても高貴さを失わぬそのお姿に感服いたしますわ、なんて選民意識ばりばりの意味わかんないおだてから私に近付いてくる。そしてマリアベルは簡単にのせられ、あれよあれよと彼女は私の取り巻きに。
のはずだったのだけど、目の前の彼女は全くその雰囲気がない。どちらかと言うと私の友人のプリメラのように、容姿に見合った恥じらいと大人しい雰囲気を持っており、あの自身と傲慢に満ちた微笑みなんてものは欠けらも無い。寧ろもうちょっと自信を持ったら、なんて言いたくなるほどだ。
「マリアベル、様」
心の底から緊張したように、顔を赤く染めながら、恥じらいながら彼女は口を開いた。
「あの、私とお友達になってください……!」