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交流会である。
交流会である。
大切なことなので二度言いました。新入生がそこそこ学校にも慣れてきたこの季節。学園の一年生は、それぞれの仲を深めるためという名目のもと、二泊三日くらいの合宿に行くらしい。
この金持ち学校にそんなものがあったのかと正直度肝を抜かれそうになったが、活動内容は至って優雅なそれであった。夕食の食材探しというのにはびっくりした。こんなものをするのかと正直一等驚いた。下手をしたら夕食は前菜だけとかいう悲惨な結果が待ち受けているのだ。それを心配したらしいクラスメイトの質問に、担任の教師は至って平静にあまりに食材を見つけられなかった生徒達には学園側から支給があるのだそう。どうせそれでフルコース揃うのだろうなぁと思うと、やっぱり贅沢だ。
週明けには出発のため、あれこれと準備に頭を悩ませなければならないだろうが、残念ながら私はまず部活動に向かわねばならない。どなたか先輩方に、留守の間私の花壇のお世話を頼まなければいけないということもある。
まぁ相手は九割ケイト先輩である。庭いじりなんて欠片もしたことのない私に、あれやこれやとノウハウを叩き込んでくれるのは彼だからだ。
ぶっきらぼうで口数はとても少ないけれど、ケイト先輩は実に優しく、そしてなんだかんだ面倒見が良い。手のかかる幼馴染がいるからだと聞いたけれど、どうやらその幼馴染というのが、この学園にも通っているらしい。そうなんだ、へぇ、と聞き流していたらそれがまさかのマリアベル様で、びっくりして、あんまり驚いたのだから尻餅をついてしまった。ホルクハイマーという姓を貰ってから、しりもちをついたことなんて初めてであった。
ただ、それをきっかけとしてマリアベル様と、驚く程に親しくなれたのは僥倖だった。たった数週間の話だというのに、マリアちゃん、リア、と呼び合う仲である。嬉しすぎて、リアと呼ばれる度に顔がにやけそうになる。
ただそういったあれこれを王子様に報告するタイミングだけが掴めないのが、唯一の気がかりでもあった。なかなか忙しいらしい王子様とは、最近は夕食を一緒に取ることも出来ないのである。ツバルさんとは幾度かご一緒して、マリアちゃんとの事もお話したけれど、肝心の王子様には何もお話出来ていない。
良かったですね、友人が増えるのは良いことですよと微笑みつつ、裏表の完全に無い人などいないのだから、見極めることも重要だと助言をくれるツバルさんは何だか、兄のようだと思ってしまった。思わずそういえば妹がいるというでは無いか。なるほど、近くに年下がいる環境で育つと人は否応なしに面倒見が良くなるのだろう。長らく一人っ子であった私には縁のない話だし、その流れでいくと、王子様の面倒見の良さは私に起因するものだ。
ようやく最近大きな蕾を綻ばせ始めた春咲きの薔薇は、多分、私が交流会に参加しているうちには咲き始めるのだろう。
薔薇の世話は難しいとケイト先輩はあまり勧めなかったけれど、私は薔薇を育てたかった。祖母が、好きな花であった。
本当をいえば母さんの好きなそれを育ててみたかったけれど、私は母さんの好きなものを、ほとんど知らない。
たまに気前の良いお客がくれた甘いもの、それから、母さんの銀色に生える、白い花。それから、そうだ、私。リリィが笑ってくれたら、私はそれだけで満足なのよ、と母さんは良く、言っていた。それが口癖であるかのように、よく、何かにつけてそう言った。
白い花を育てようかとも思ったけれど、あの白い花がどう言った花なのかを私はよく覚えていなかったし、まずあの娼館を訪れるような客が持ってくる花を、この高級志向な学園で育てられるはずがなかった。
ただ、白は母さんの、私の、そして、王子様の色だ。
だから薔薇の色は白である。
ちらりと見える雑草を引き抜いて、水をやって、一応、今日の所はこれで終わり。肥料はそう毎日やるものでもないし、余計な枝の剪定だってまた然り。小さな花壇ひとつの世話は、三十分もあれば終わる。
作業着というものを用意すれば良いと言われたけれど私は基本的にいつも制服のまま花壇の手入れをしている。着替えが面倒くさいというのと、洗濯はどうせ魔法云々の便利な機能でどうにかなっているというのに甘えているからである。初めは散々拒否していたくせに、むしろ嫌悪すらあったくせに、高級志向に慣れてしまった自分が怖い。
「リア」
呼び止められて振り向いた。相変わらず、仏頂面のケイト先輩が後ろに立っていた。
少し土に汚れたつなぎ姿はすっかり見慣れたそれである。このほど近くにある彼が担当している花壇の方に居たのだろう。どうやら今日は、マリアちゃんは一緒ではないらしい。
「ケイト先輩」
「花壇、交流会の間見ててやろうか?」
突然の申し出にびっくりして、変な声が出そうになった。この癖は直した方がいいだろうに、なかなか治ってくれない。
「あら、丁度先輩に頼もうと思ってたんです。今日にでもマリアちゃん経由でお伝えしようかと」
つとめて平静を装って、私はそんなふうに微笑んだ。
「そう、丁度マリアに聞いたんだよ。リアが頼みたいだろうからって」
「そうなんですか、マリアちゃんは流石ですねぇ」
お互い何となくそんなふうに笑いあって、それからちょっとだけケイト先輩の花壇を見させていただいて、それから多分、ほとんど邪魔にしかならないだろうに、手伝いまでさせて頂いた。
「私、大分手際が悪いと思いますけれど……」
「初めの頃よりマシだし、数こなした方が慣れるよ」
「……ありがとうございます」
さらりとそういうことを言って、ケイト先輩はもくもくと作業に戻った。
ちらりとそれを横目で伺ってから私も黙って手を動かす。余計な打算も、緊張感もない。この空気は、本当に楽だ。

平和は束の間だから美しい