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緑の深い大自然に放り込まれて、世間知らずを拗らせている……というか生まれてこの方祖国の王都から出たこともなく、またその王都にしても、自宅と、王宮だけで世界の殆どを形作っていた私からしてみれば全く未知の世界だった。こういう所を知らない訳では無い。実際に、私が私だった頃にしても見たことがなかったと、それだけの話である。どうやら私はそれなりに都会に住んでいたらしいのだ。ただ、最近はその記憶もほとんど朧気で、私が日本という国に住んでいた他愛のない女であったとそれくらいしか、出てこない。
もちろん思い出そうと思えば大まかなことは思い出せる。ただ、あまり、詳細なことは出てこなくなってしまった。私がどうして私になったのか、それは今でもわからない。
文明化された社会とは程遠いような大きな山林を前に、こうこうと聳え立つお屋敷が所謂合宿所であり、交流会の会場である。室内設備が実に充実しているらしく、此処だけでも交流会は十分に完結し得る。ただ、あの夕食の食材探し、と銘打ったカード探しを初めとして一部の交流企画では、この大きな森の中も使うらしい。
森と言っても少し進んだところに結界が張ってあり、例えば動物だとか、果ては部外者の侵入を防いでいるのだとか。ふぅんと、聞き流していたがそれまでだ。私も、そして一緒に行動する予定のマーガレットもキャシーも、わざわざ危険を冒しに行くほど考えなしでもない。所詮他人事だ。
「すごく広大な森ね」
「マーガレットはあまり驚いていないの?」
言葉とは正反対にマーガレットの声色も表情も、大きな自然に対しての尻込みは欠けらも無い。
「私の生まれ育った屋敷は自然の中にありましたから。森の事は基本、よく知っているつもりよ」
「ベルさんってば羨ましい。植物に囲まれて育ったなんて」
植物が好きすぎるあまり若干おかしな方向に感心するキャシーに、少し呆れてしまった。彼女はいつもそうだ。新しい植物が発見されたとなれば、きっと野でも山でも駆け回るのだろう。
「そうね……この中で森になれているのって、マーガレットだけになるんでしょうね」
私は生粋とは言わずとも、箱入り娘だし、キャシーだってなんだかんだ言いながら王都育ちで、野を駆けて遊んだ経験なんて無いだろう。
「でも、森の中なんて夕食の食材探しくらいでしか行かないでしょう?」
マーガレットはケラケラ笑った。確かに、その通りである。私達は三人とも、交流会で行われるレクリエーションは屋内で行われるものを選んでいる。キャシーまでそうだなんてと少し驚いたが、植物を見て回るというコースは無かったのだから仕方が無い。
ただ内容は私が演劇鑑賞で、キャシーが手芸体験、それに加えてマーガレットはテニスである。マーガレットは部活がそのままである。そんなにテニスが好きなのだろうか。前も今も、運動というものが全くできない私には夢のまた夢である。
各自に与えられた部屋に荷物を置いて、ホールで全体概要を説明を受け、今日のレクリエーションへ向かう。レクリエーションは明日もあるけれど、やっぱり初日は幾らか緊張するものらしい。数少ない友人達とは皆、離れてしまうというのも理由の一つ。
人の波におされながら歩いていると、私は目の前に見知った藤色を見つけた。

隣の芝は青くもない