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合宿は実に楽しかった。
大人しそうな見た目に反して、行動派のマーガレットや観察力に長けたキャシーのおかげで夕食の食材集めという、実に趣旨のわからない企画も楽しむことが出来た。正直私はほとんどと言っていいほど何もしていなかったが、これはしていない、というのではなくどちらかと言えば何も出来なかったが正しい。体を動かすこと全般を苦手とする私としては、社交の場所で踊るダンスが最高ラインである。
この合宿の間中、一度も王子様の姿を見ることが出来なかったことばかりが、少し寂しいなと、何かあったといえばそれくらいだ。ここは学校の敷地内で、手紙を送るにも送れるような場所でもないし、それに、所詮数日だ。学園に入学する前は手紙のやりとりにしろ二週に一度とか、そのくらいのペースだったのにここに入学してからは数日に一度は顔を合わせることが出来ているのだ。私は王子様に対する依存度を、着実に高めていっているような気がする。
これは果たして、いい事なのだろうか。
自問自答してみるが、恐らくはそう良いことでもないのだろう。他人に対する依存は深ければ深いほど、その人と離れた時に辛くなる。王子様が母さんや祖母のようにスっと死んでしまうとは思わないし、思いたくもないが、しかし彼は一国の王子であるから、何かと危険も多い。どうなるかなんて、分からないのだ。
私ってば随分学習しないなと、飛行艇の中で、ぼんやりと考えていた。
あれやこれやと楽しい思い出になった合宿だが、何やら最後の夜に何か騒ぎがあったらしい。肝試しをやらないかと誘われたのだが、その肝試しでマリアちゃんと、彼女のクラスの……確かサーシアといったか。その男子生徒が、迷子になった挙句山に迷い込み……といった具合に結構な大事になっていたらしい。
ちらりと声をかけた感じでは、マリアちゃんは擦り傷と打ち身程度らしいので安心である。彼女は完璧で高慢なご令嬢といった見た目に相反して、結構なじゃじゃ馬系ということはケイト先輩から聞いたことがあったし、彼女自身顔色もよくぴんぴんしていたし、本当に大丈夫なんだろう。マリアちゃんは大変な時、そうと顔に出るタイプの子である。
私達は肝試しの誘いを断っていたのだが、そんな騒ぎになるのなら断っていてよかった。断った理由はキャシーが暗い場所を苦手としているからである。私も夜の森なんていくら合宿所の中とはいえ怖いし、お化けやらなんやら、そういうものも普通の女の子らしくそれなりに苦手だから、キャシーに便乗して断った。マーガレットといえば怖い話が大好きで、そのうえ夜目が効き、おまけに森を歩くことに慣れているというとんでもスペックの持ち主であったが、そんな彼女も、私たちが断るのならばと断っていた。気を使わせてしまったようで、少し申し訳なかったけれど、気にしないでくれと微笑まれてしまったから私は何も言えなかった。
「リア、もうすぐ着くって」
「ありがとう、マーガレット」
「どういたしまして。それより、リアは眠らなくてよかったの?」
「ええ、夜しっかり寝たもの」
「キャシーなんてもうぐっすりなのにね。リアはなんか、体が弱そうだからちょっと心配だったのよ」
「そうなの? でも、私結構体は強い方なのよ」
病弱だと思われていたのか。少し、驚きである。私の見た目が儚げ、ということは否定しない。だからマーガレットは私を病弱だと思ったのだろう。ただ、私自身はあまり体調を崩すタイプでもない。季節の変わり目にちょっと体調を崩すくらいだ。
ここのところ体を動かす機会が多いから、夜は毎晩ぐっすりだし、そのおかげで目覚めもすっきりしている。合宿の疲れが出たとはいえ、飛行艇の中で眠ってしまおうと思うほどではなかった。
「学園は、もうすぐ……」
飛行艇の、このずっと下に学園がある。帰ってきた、と思ってしまうのは私が実家よりもはるかに、学園に馴染んでいるからか。
私ってばびっくりするくらいチョロい。自分にちょっとだけ呆れてしまったが、とりあえず明日、王子様に会えそうな時間に食堂へ行こうと思った。