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もうすぐ夏季休暇だ。
制服が夏用のそれに変わり、あたりの気温が徐々に上がっていくと嫌でもそれを自覚させられた。
嫌だな、と顔が曇るのを抑えきれない。夏季休暇といえば、よほど家が遠方にある生徒を除いて、実家に帰るのが常である。
両親とも不仲である私は帰らずとも良いかと思ってしまったが、父から先日、夏季休暇には云々かんぬん色々の予定があるという手紙を頂いてしまって、帰らないという選択肢が潰えてしまった。社交界への出席も今後は増えるのだろうと思うと気が重い。
「嫌ね、こんなに暑いのに休暇早々パーティーですって」
先日、お父様から手紙が届いたの。とマリアちゃんが顔を曇らせている。
寮の食堂で優雅に紅茶を飲むマリアちゃんに、私も心からの同意を込めて頷いた。
「ただでさえパーティーは疲れるのに……今年からはかなり増えるらしいから」
「えぇ。知り合いがいる分には良いのだけど、とクラスの友人とも話していたの」
「きっとマリアちゃんとは色んなところでご一緒すると思うわ」
「そうね、リアとは出席する殆どが被っていると思うから」
頷き合うと、少しだけ気が楽になる。王子様とはパーティーの間常に一緒にいるわけにも行かないのだ。彼は王族で、あれやこれやの義務がある。
今度の夏からは、私が婚約者と決まったという少しばかりのアピールのために挨拶には同席させてもらう予定だが、常にべったりとは行かないのが辛いところである。
それもこの数ヶ月でできた幾人かの友人と一緒にいれたら良いのになぁ、と思ってしまうのは私の感覚がほかの令嬢とはおよそ違っているからか。
豪華なこと、華美なこと、というのは私は相変わらず苦手である。
貴族らしからぬ趣味嗜好だとはよく言われる。キャシーもそうだが、仮にも公爵家の令嬢が園芸部で土いじりをしているというのは、他の人の目にも奇異に映るらしい。わからなくもない。
マリアちゃんも、そういう心配というのをしていたのだろうか。彼女もやっぱり、シンプルイズベスト派なのである。見た目だと豪華絢爛なごてごてのものが好きそうなのに、決してそんなことがないというのが面白い。
「あーあ、」
ちょっとだけため息をついてしまった。
マリアちゃんには聞こえなかったらしく、彼女は優雅にお茶を飲んでいる。
実家に帰るのか、とそう思うだけで気分は憂鬱だった。パーティーも勿論あまり好かない。けれど、あの家に帰ることを考えると憂鬱さは殊更ひどくなった。
なんせ、私はあの家にはいらない娘でもある。学園でそれなりに王子様に気に入られていさえすれば、それで事足りてしまう。私が家を出る頃に生まれた弟や養母のことを思うと、きりきりと胃は痛むし、どんより気分は沈む。あの家の中に私が気にかけることなど何も無い。妙に私に対して甘くなった父だって気持ちが悪い。今更、私にゴマをすって何になるというのだろう。
本当に憂鬱だ。前は夏休みだなんだと長期休暇を楽しみにしていたというのに、今の私にとっては全部、考えるだけで気分が沈むものにしかならない。あちらこちらに、嫌いなものばかりがあるというのもなんだかすごく、嫌なことだった。