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「落ち着いた?」

ひとしきり泣いてようやく落ち着いた梨都の目は、ウサギみたいに真っ赤になってる。それでもまだ揺れてるその目が、言葉より雄弁に梨都自身のことを語ってる。

「嫌いになったりしないから、教えて」

梨都が思ってること、したいこと。ちゃんと僕に教えて。

「ったし、蛍くんになにもしてもらわなくても、大丈夫」
「でも我慢してることあるでしょ?」

いままで少しも気付かなかったんだから偉そうなことは言えないけど、それくらいわかるよ。そうじゃなきゃ、こんなことにならなかった。

「言えないなら僕が梨都としたいこと言っていい?」

無言で頷いた梨都に、僕はゆっくり口を開く。

「梨都が嫌じゃなければだけど、また一緒に弁当食べたい」

梨都が本音を言えない状況を作ったのは間違いなく僕だ。時間をかけて、無意識のうちに優しい梨都を追い詰めてた。

「待たせることになるけど、放課後一緒に帰りたいと思ったこともある」

そのことに今更気付くとか、情けなくて仕方ない。

「あんまり時間作れないと思うけど、ちゃんとデートもしたい」

ねぇ、知ってる?梨都に別れを切り出された時、柄にもなくへこんだんだよ。

「1回もケンカしたことなかったけど、こんなことになるくらいならケンカした方がよかったと思ってる」

僕の知らないところで山口と2人で昼飯食べたって聞いた瞬間、頭に血が昇った。しかも梨都は泣いて、それを山口が慰めたとか、思考するより先にムカついた。その状況を作ったのはやっぱり僕だから、山口にも何も言えないんだけどね。

「いままでゴメン。梨都が優しいからってずっと甘えてた」

否定するように頭を振る梨都の、小さく震える手を包み込む。僕よりずっと小さくて、少し震えてる柔らかい手。今日この瞬間まで、僕達は手を繋いだことすらなかった。初めてが今だなんて、ホントいままで何してたんだろう。

「ね。我慢しないで、僕に教えて」

別れは認めないけど、どんな言葉だって受け止めるよ。恨み言も全部聞く。僕は何を言われても仕方がないことをしたんだから。

「本当に、してほしいことはないの」
「嘘じゃない?」
「うん」

どうしたら本心を教えてくれる?もう僕じゃダメなの?

「でもね、」

山口じゃなきゃダメなのかと思った時、梨都がようやく口を開いた。
僕は僅かな音も聞き漏らすまいと耳をそばだてた。

「一緒にいてほしい時、ある」
「うん」
「部活頑張ってるの知ってるから、無理は言わないけど…」

梨都がワガママを言ったことがないからわからないけど、相当無茶なことじゃなければ叶えたいと本気で思ってるよ。

「応援も、行きたい」
「うん」
「本当にたまにでいいから、一緒に帰りたいって、思った…っ」
「僕も」

本心を口にするのは、梨都にとってものすごい労力を使うことなんだろう。また泣き始めた梨都をあやすように抱え込んだ。

「でも、蛍くんの邪魔になったら、いけないと思って」
「そんなこと少しも思わないよ」
「だんだん、私が隣にいることが迷惑なんじゃないかって思って」
「なんでそうなったのさ」
「だって、私なんにもない」

梨都のいいところならいくらでも言える。

まず優しいところ。誰にでも優しいのはちょっと気になるけど、困ってる人を見つければ迷わずに手を差し伸べられるところが好き。少し無理しすぎるきらいはあるけど、がんばり屋なところもかわいい。あと細かいところによく気が付く。だからこそ、頑張りすぎることになるんだろうけど。
こうして抱き締めるとすっぽり収まる少し小さめの身長も、柔らかい手も、笑うとできるえくぼも気に入ってる。

「そんなこと言ったら、僕だってなにもないよ」
「そんなことない!」
「そう言うことだよ」

誰も自分のことなんてわかんないんだ。

「だからたくさん話そう。もう梨都と離れるとかヤダ」



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