なんとか気持ちを落ち着けて、私はゆっくりと思考する。蛍くんはそんなことないって言ってくれたけど、私は何も持ってないとしか思えない。
蛍くんは背が高くて格好いい。勉強もできるし、部活でもその身長を生かして貢献してる。しかも優しい。女の子が騒いでも冷静に対応して、それが結果的に人気を集めてることになるなんて気付いてない。せめて優しくしないでくれたらいいのになんて、ワガママ考えちゃう。
「ごめんなさい」
「なんで謝るの?」
「泣くの、めんどくさいでしょ?」
「そんなことないよ。梨都を泣かせたのは僕だし」
「ちがっ」
「梨都が泣かなくていいように気を付けるから」
蛍くんは、やっぱり優しい。
「でも、教えてほしいことがあるんだよね…あの日、なんで急にあんなこと言ったの?」
私が一方的に切り出したのに、怒らないで理由を知ろうとしてくれる。
「ごめんなさい」
「謝らなくていいから、教えて」
「でも、わかったって言ってくれたよね」
「あの時は急だったから、僕も混乱してたんだよ。全然わかってないし納得もできてない」
繋がれたままの手があったかくて、甘えたくなる。でも、1度別れた手前、優しくされたからってまだ甘えるとかどうなの?
「理由あるんでしょ?」
私からこの優しい人の手を離したんだから、また私が手を伸ばすなんてズルい。
「ないよ」
「あの人が関わってるの?」
あの人が蝦名さんを指してることはすぐにわかった。
確かに蝦名さんは今回のきっかけになったのかもしれないけど、決断したのは私。だからこの場に他の人を出すのは間違えてる。それなのに、蛍くんはすぐ答えにたどり着いちゃうんだもん。
「さっき思い出したけど、あの人何回か僕に会いに来てたよね。関係あるんでしょ?」
「ないよ」
「嘘つかなくていいよ」
きっと蝦名さんが関わってなくてもこうなってたよ。だって私が弱かったんだもん。私が変わらなきゃ、きっとこれから先も同じ事を繰り返す。それがわかってて、また蛍くんと一緒にいたいなんてワガママだ。
「ほら、私取り柄とかないしキレイでもないし、並んでて申し訳ないなって」
「なにか言われたの?」
「そうじゃなくて、気付いたの。私がいたらダメなんだろうなって」
私にいいところがあるかなんて、わかんない。みんなそんなもんだろうけど、きっとどこかいいところがある。蛍くんはいいところの塊だし、山口くんとはあんまり話してないけどそれでもわかるくらい優しい人。なんにもない私がそんな2人に近付いたらいけなかったんだ。近付きすぎたら羽を落とされた彼の人の様に、飛ぶこともできない私は防空壕に逃げ込まないといけなくなった。
「なんなのそれ」
怒らせちゃったかな。嫌われたくはないけど、この際嫌われちゃってもいいかな。そうしたらこの気持ちを手放せるかもしれない。横に置いて、いつか忘れられるかもしれない。
「梨都にはいいところも取り柄もたくさんあるし、僕と並ぶことで梨都に不都合があるの?」
「なんとなくだけど」
「なんとなくで勝手にやめないで」
溢れたため息は、怒ると言うより呆れたと言った方が近いような空気を含んでいる。めんどくさいと思ってるんだろうな。
「なんか言われたんだろうけどさ、周りなんて正直どうでもよくない?誰がなんと言おうと僕は梨都が好きなの。わかる?」
そのくせに、私に向けられた言葉は今だかつてないほどに甘くて優しい。
「僕が隣にいてほしいって言ってるんだからそれでいいでしょ」
「でもね」
「僕は梨都が好きで、梨都も僕を好きでいてくれるんだよね?ならそれでいいデショ」
なんで私なんかにそんなこと言ってくれるの…?
「梨都、僕と付き合って」
ねぇ。私が勝手に別れを切り出して、混乱したまま頷いてしまったからそう言ってくれるの?
「それから、もう絶対別れるとか言わないで」
付き合い始める時に言われた言葉と、今回新しく追加された言葉。そんなこと言われたら頷かないでいられない。
だって、どう頑張っても蛍くんのことが好きなんだもん。
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