1 


授業が終わるまで居場所がない僕らは、チャイムがなるまでここにいるしかない。梨都は授業のこととか気にしてるんだろうけど、僕はそんなことを考えてる暇なんてなかった。もう2度と同じ事を繰り返さないために、僕がこの時間に出来ることはただ1つ。

「今日、部活終わるの待ってて」
「え?」

ちゃんと話すことだ。

「で、でも」
「迷惑とかそんなんじゃないから」
「…見られたくないんじゃなかったの?」

そう思われても仕方ない。今まで試合の日取りを教えたことはないし、見たいって言われても来なくていいって言ってた。

「そんなんじゃなくて…」

変な意地張らなければよかった。
もしも戻れるなら、無駄に意地張ってると大変なことになるって少し前の僕に教えてやりたい。意地なんて張ってなければ、すれ違うこともこうして別れを切り出されることもなかったんだろうか。

「梨都にカッコ悪いとこ見られたくなかったんだよ」
「…え?」

梨都に情けない所を見られて幻滅されたくなかった。見られたくない理由なんて、それだけだった。

「蛍くんが格好悪い時なんてないよ?」
「あるの。僕だって彼女にダサい所見られたくないんだから」

くそ。わかってたけど、こんなこと言うなんてめちゃくちゃカッコ悪い。でもここでやめたらまた同じことの繰り返しだ。

「また別れるって言われることになるくらいなら、全部見られて嫌われてからがいい」
「嫌いになんてならないよ。逆に私が嫌われちゃいそうなくらいで」
「それこそないね」

一緒にいて楽しいと思う女子も、一緒にいたいと思う女子も梨都しかいない。他の女子とは話す必要すら感じない。

「そんなのわかんないよ」
「その言葉、そのまま梨都に返すよ」

梨都はもっと色々割りきれたら、少し楽になるだろうなと思う所がある。優しいからこそ気を使いすぎて割りきれなくて、結果として板挟みにあって自分を追い込むことになってるんだと思う。
無意識に自分のことを傷付けてる、そんなところは少し嫌いかな。

「だからさ、お互いイヤになるまで一緒にいようよ」

僕は思うんだけどさ、好きになった人に好きになってもらえるってすごいことだと思うんだ。

何億人といる地球の、日本って小さな島国の宮城の地。更にいくつもある学校の中から烏野を選んで、出会って知り合って。でも、そうして知り合うのも1人じゃなくて。20にも満たない短い人生だけど、それなりに多くの人と知り合ってる。その中からたった1人を好きになる。
ここまではなにもおかしくないけど、相手も同じように何億といる人の中から自分を見つけ出してくれる。

このことを奇跡って言うんじゃないの?

「ごめんね、蛍くん」
「なにが?」
「好きでごめん」

なんで謝ってるの?本当、梨都はバカだなぁ…

「僕の方こそ、好きでいてくれてありがとう」

この言葉はどれくらい伝わってるんだろう。また泣きそうになってる梨都を抱き締めて言葉にして、それでも伝わらないなら僕はどうしたらいい?
将来を約束するにはまだいろいろと準備が無さすぎる。だからと言って目先の事を約束するだけでは薄っぺらすぎる。なにをするにも、足りなさすぎる。

「僕の事好きでいてくれるなら、ずっと隣にいて」
「ったしで、いいの?」
「梨都がいい」

堪えきれずに泣き始めた梨都の背中を、あやすように叩く。
泣きすぎて脱水症状になったりなんかしないよね?ありえないとは思うけど、そう思うくらい梨都は泣いてる。

「梨都の事を好きな僕の事を好きになってくれて、ありがとう」

僕がここまで言うことなんてないんだから。そこのところわかってる?

「私も、蛍くんと一緒にいたい…っ」
「うん」

わかってないんだろうな。

「じゃあ一緒にいよう」
「うん」
「誰が何を言っても気にしないで、っていっても梨都は気にするよね」

だから、

「何かあったらすぐ僕に教えて。必ず助けるから」



PREV / LIST / NEXT