『何かあったらすぐ僕に教えて。必ず助けるから』
蛍くんからそんなこと言われると思わなかった。負担になっちゃうってわかってるのに、その言葉がどうしようもなく嬉しい。
「遠慮とか隠したりとかしないでよ。また別れるとか言われる方がよっぽど困る」
「ごめん」
「謝らなくていいから、やり直そう?」
「…ん」
私がグズグズしてても、蛍くんはいつだってこうして待っててくれる。そう言えば、お昼一緒に食べてるときもそうだった。食べるのが遅いのに気付いてペースを合わせてくれてた。
「あーあ、真っ赤になってる」
「あ、やだっ」
「今更だよ」
さんざん泣いた私の顔は酷いことになってるだろう。瞼が腫れてることは鏡を見なくてもわかる。そんなかわいくもない泣き顔を真っ正面からバッチリ見られた。恥ずかしさしかない。
「このまま戻れないよね」
しかもものすごく優しく涙を拭ってくれる。
「保健室で冷やしてから戻る」
「じゃあ行く?」
「え、見つかったら怒られちゃうよ」
「大丈夫デショ」
蛍くんに手を引かれるまま階段を降りていく。
体育のない時間帯なのか、外からも声が聞こえなくてひっそりと静まり返ってる。そんな空間に蛍くんと2人でいるのが、なんだか不思議なことに感じた。
「好き」
つい溢れた言葉は紛れもない本音。横に置くことも誰にも譲ることができなかった私の心。
「僕も」
それに同じ心を返してもらえることが、こんなに嬉しい。
「別れようなんて、もう聞きたくないからね」
釘を指すようにそう言った蛍くんがどこか不機嫌そうで、私は久しぶりに笑った気がした。ああ、泣きすぎて頬が荒れてる。パリパリして少し痛い。
思ってるだけじゃなにも伝わらないなんて、人間とはなんてめんどくさい生き物なんだろう。でも、だからこそ伝わったときに嬉しいのだろうか。
それなら、ちゃんと伝わるように言葉にしないといけない。
「私、蛍くんがバレー頑張ってるの知ってるから、デートできなくても大丈夫だよ」
「でもそれで辛い思いさせたんでしょ」
「辛くはなかったよ」
少しだけ寂しかったけど、辛くはなかった。これは嘘じゃない。
「強がらなくていいから」
1度疑ったらそれはなかなか正せない。
本当に辛くなかったんだけどなぁ。
「じゃあ1個ワガママ言ってもいい?」
「1個じゃなくてもいいよ」
今は1個で充分。でも、そういってくれるなら思い付いた時にまた言ってみようかな。
「今日、練習見ながら待っててもいい?」
繋がれた手がピクってした。
やっぱり困らせちゃったかな?もっと他のこと、例えばなにか蛍くんが困らないものにすればよかった。
「イヤなわけじゃないから、勘違いしないでよ」
じゃあなんでちょっと反応したんだろう?
「体育館狭いから、ちょっと心配なだけ」
「そっか」
「怪我しないように気を付けてよ」
「うん」
なんだ、心配してくれてたんだ。もしかしたら今まで来ないでって言ってたのも、心配してくれてたのかもしれないなんて思った。
それならそうと早く言ってくれたらよかったのに。でも、言われてても悪い方向に考えてたかもしれない。
「あと話しかけられたら全部無視して」
「…うん?」
「山口とマネージャーはいいけど、それ以外は口利かなくていいから」
それはちょっと…いくらなんでも態度が悪く見られるんじゃないかな。1年のくせに生意気だって言われるんじゃないかな?
「わかった?」
「でも怒られない?」
「無視されて喜んでる人いるから気にしなくていいよ」
なにそれ。無視されて喜ぶなんて、そんな特殊趣向な人が部活にいるの?
「でも部長さんとか挨拶しないと」
「僕が話しておくからいいよ」
さすがにみんな無視するわけにもいかないと思うけど、今はいい子な返事をしておこうかな。
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