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「安住さん!」

びっくりして振り返ると、山口くんがいた。

「久しぶり。どうしたの?」

山口くんとはあんまり話したことがないから、どうして話しかけられたのかわからない。
いや、思い当たることはある。月島くんとのことだろうか。山口くんは月島くんと友達で、2人でいることが多かった。だから必然的にわかったんだろう。

「あの、お昼休み時間もらっていいかな」

蝦名さんも、月島くんと一緒にいることの多い山口くんのことは知ってるはず。だからあまり長く話してるのはよくない。また雨が降ってくるから。

「わかった」
「あそこで待ってるからね」

あそこってどこだろうと思ったけど、あえて聞かないで肯定の返事だけ返した。山口くんと共通認識のある場所なんてない。もし行けなかったらただ待たせることになっちゃうから、なんとか見つけないと。
いや、でも行けなくてもいいのかな。もしも一方的に終わらせてしまったことを山口くんに咎められたらどうしよう。そうなったらそれでいいや。





授業中も考えて、思い当たる場所がひとつだけあった。よく月島くんとお昼を食べてたあの階段。山口くんとはじめて話して、はじめて知り合った場所。
違ったらそれまでってことでいいや。月島くんに嫌われちゃうかな。それもちょうどいいか。

「よかった…」

薄暗い屋上近くの階段に、山口くんはやってきた。

「場所言わない方がいいのかなと思って」

しかも山口くんは私の状況をわかってくれたらしい。場の空気を読む能力に長けてるのは、その性格からだろうか。

「ありがとう」
「ううん。あ、食べながら話す?」
「うん」

お弁当を広げると、卵焼きが目に入ってなんとなく複雑な気持ちになる。

「山口くん」
「なに?」
「あげる」
「え?ありがとう…あ、じゃあ俺もっ」

意図せずおかず交換になったけど、卵焼きとハンバーグじゃあ割りに合わない交換になったんじゃないかな。

「卵焼きおいしいね」
「ありがとう」
「安住さんが作ってるんだっけ?」
「うん」
「料理上手なんだってね」
「そんなことないよ。簡単なのだけ」

2人の仲がどれほど良いのかわざわざ聞かなくても話の節々からわかってた。だけどこうして私の話を山口くんにしてくれてたって知ると、本当に仲良しなんだなって思う。

「あの、ツッキーから聞いたんだ」

お弁当を閉じたタイミングで言われたその言葉に、ああやっぱりそうかとしか思えなかった。

「そっか…ごめんね」

言い訳は無用。烏滸がましくも私から月島くんに告げたのは、紛れもない事実。

「なにか訳があるんだよね」

訳なんてない。私が弱かっただけ。

「ツッキー怒ってないよ。むしろ安住さんのことずっと心配してると思う」

そんなことないよ。だって付き合ってる感じのこと、したことないもん。手を繋いだことすらない。やっぱり罰ゲームとか、そんな感じだったんだよ。だから怒ってるし私の心配もしてない。

「ツッキーに言えないなら俺に話してくれてもいいから、ね?」

そんなことできないよ。よく知らない私なんかを気にかけてくれるような山口くんに、こんな私のこと話せない。

「え?あ、安住さんっ?!」

自分のことしか考えてないなんて、ホントやだ。しかも泣き出すって山口くんが困ることでしかない。

「俺のことなら気にしなくていいから、何があったのか教えて?」

言えないよ。蛍くんは意外と言うかなんと言うか、沸点が低いからもしもバレてしまったら怒ってしまう。

「…ったし…っ」

早く手放さないといけないのに。この両手から零れそうなほどにある彼に渡す愛は、一体誰に譲ろう?

「蛍くんは、付き合っててほしいっ」
「だったら!」
「だから、蝦名さんとお付き合いしてくれたらって、思うよ」
「…え?」

そうでもしないと、諦めがつかない。

「私より綺麗でかわいくて、強い人だから、お似合いだと思う」

早く諦めさせて。

「ちょ、ちょっと待って。俺よくわかんな」
「私なんかより、いいよ…」

ねぇ、どうしたら蛍くんのこと好きでいるのやめられますか?



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