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話してわかったことがある。
安住さんは、泣きながら話すくらいまだツッキーのことが好きなんだ。それなのに、なにかあって安住さんはツッキーと別れる選択をした。しかも今、その両手から零れそうなほどの好きって気持ちを、誰かに譲ろうとしてる。
どうしてそうなったのかわかんないけど、そんなのどこにも宛てがあるわけないだろ。好きな気持ちはその人だけのもので、誰かに渡したり出るものじゃない。
きっと俺じゃダメだ。ツッキーが動かないと安住さんは動かない。

「ああ、もう!」

なんでこんなことになってるんだよ。たぶん話に出てきた人が原因でこの状況になってるんだと思う。だったらその人を何とかしないといけないし、それにはツッキーの協力が不可欠。

「ツッキー!」

ツッキーだってずっと安住さんのこと気にしてるんだから、きっと話せばわかってくれる。

「なに、山口」
「大事な話があるんだ」
「ふぅん」

気にしてない風を装ってるけど、ヘッドフォンをしないってことは多少気になってるんだろう。

「…蝦名さんって、知ってる?」

あんまり大きい声では言えないけど、ツッキーが知ってる人だと思う。

「知らない」
「本当に?」
「そんな嘘ついてどうするんだよ」
「そうだけどさ…」

名前を聞いてもピンとこないらしい。安住さんの口振りだとツッキーの知り合いで仲のいい人、少なくともツッキーの近くにいる人なのかなと思ったんだけど、そうじゃないらしい。誰なんだろう。

「その蝦名さんがなんなの?」

こんなこと、ツッキーには言わない方がいいんだと思う。だけど言わなきゃきっと納得してくれない。

「安住さんが、ツッキーは蝦名さんと付き合ってほしいって」
「は?なにそれ」
「だけど絶対あんなの本心じゃない」

ツッキーが不機嫌になったのはわかったけど、勘違いしてほしくない。ツッキーも他の誰かも、絶対に勘違いしたらやだ。

「なんでそんなこと思うのさ」
「だって、本気でそう思ってるならあんな言い方はしない」

もしもツッキーのことをなんとも思ってないなら、泣きながらあんなこと言わない。俺に甘く作られた卵焼きをくれることもない。堪えるように謝ることだってない。

「ツッキー、やっぱり話した方がいいよ」
「なんで」
「きっと何かあるんだよ。安住さん、ツッキーのこと嫌になって言ったんじゃないと思う」
「山口が思ってるだけだろ」
「そうだけど、直接安住さんと話して思ったことだよ」

ツッキー、諦めちゃダメだ。ツッキーも安住さんのことまだ好きなんでしょ?それならちゃんと話して仲直りしなきゃダメだよ。

「詳しく聞いてないからわかんないけど、ツッキーのこと嫌いだったら泣きながら謝ったりしないでしょ?」
「…は?」

そう言った瞬間、ツッキーに睨まれた。

「なにそれ、泣いたってなに」
「そ、そのままだよ。泣きながら蝦名さんの方がとか、」
「山口の前で泣いたの?」
「う、ん」

勘違いしてほしくないけど、そんな本気で睨まれるのは覚悟してなかった。

「いつ」
「…さっき」

ツッキー怖い。

「なに?さっきってことは昼食べたのって梨都と?」
「う、うん」

盛大な舌打ちが返ってきた。
内緒にしたのがマズかったのか、一緒に昼食べたのがマズかったのかわからないけど、ツッキーが怒ってることだけはわかった。

「…ちょっと行ってくる」

どこに行くのとか、もうすぐチャイム鳴るよとか、そんなことは言わない。
ツッキーがどこにいくかなんてわかりきってる俺にできるのは、たったひとつ。

「いってらっしゃい!」

ツッキーの背中を押してあげることだけだ。



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