「いっせ!お疲れさま!」
「沙羅もお疲れ様」
「私は疲れてないよ?」
「あんだけ声出してたら疲れるんじゃないの?」
「そんなことないよ!いっせーを応援できるのはとっても楽しいから!」

あーもー可愛すぎるんですけど、なんなのこの生き物。

「今からだとあんまり時間ないけど、どっか行きたいところでもある?」
「いっせといられるならどこでも!」

可愛すぎか。
かといって外にいるには辛い寒さ。どっか適当に入るか。

「俺も沙羅が行きたいところがいいんだよね。したいこととかもないの?」

そう聞くとうんうんと考えはじめた。

「あのね、いっせーとケーキ食べたい」
「ケーキ?」
「うん、クリスマスのケーキ」

クリスマスのってことは、あれか?サンタとかが乗ってるホールケーキ?

「そんなおっきいのじゃなくてね、コンビニとかのでいいから、一緒に食べたいなぁって思ったの」

大きくなくていいと言ったのは、きっと俺がケーキ系を得意としてないから。きっと大きいケーキを見るのが好きだろうに…

「コンビニなんて寂しいこと言わないで、どっか食べに行こうか」
「え!」
「ケーキ屋は無理だけど、探せばどっかあるでしょ」

沙羅の手を引きながら携帯片手に検索する。握った沙羅の指先は冷たい。早いところ店を見付けて、家まで送り届けないと。

「いっせ待って!大丈夫だよ!」
「なにが?」
「ケーキなくてもいいの!」
「我慢しないの」
「違うのー!そうじゃないのー!」

沙羅が愚図るように声をあげて手を振りほどこうとするから、足を止めてそのまま振り払われてやる。そうしたら、少しだけ申し訳なさそうに指先を掴まれる。

「私はね?いっせーが一緒にいてくれたら、それでいいんだよ?」

別に俺は少しも怒ってないのに、沙羅はまるで叱られた後みたいにへこんでる。

「だから、ケーキ探しながら引っ張られるより、ただ一緒に帰って、そのついでにお話したり、オマケでケーキが食べられたらハッピーなの」

もう少しワガママ言っても構わないんだけどな。

「じゃあハッピーになりに行こう」
「え」

ちょうどいいカフェはもう見つかってる。この季節だから、売り切れていなければケーキもあるだろう。

「待って!いっせー!」
「沙羅が好きそうな店、もう見つけちゃったんだよね。だから一緒に行ってくれない?」

それらしい店はさっき見つけたから、あとは連れていくだけ。

「ぅう〜」
「はい、じゃあ行くよー」

今時驚くほど素直な沙羅は、手を引けばそのまま着いてきてくれる。岩泉には「親子か」なんて言われたけど、まぁそう見られてもいいかな。誰がなんと言おうと、俺達の関係には代わりがないんだから。

「ケーキはなにが好き?」
「ん?んー、クリスマスならノエルかなぁ」
「ノエル?」
「切り株のケーキ」

確かに、クリスマスっぽくて動物が乗ってそうで沙羅が好きそうだ。

「あとはね!モンブラン好き!」
「沙羅が好きなものって分かりやすいのね」
「?」

ふわふわしたぬいぐるみみたいな動物が好きな沙羅らしいチョイスだ。本人はまったく気付いてないんだろうけど、及川辺りはすぐに気付いて笑うだろう。

「いっせーは?なんかある?」
「チーズケーキかな」
「チーズケーキならさ、北海道のフワフワの食べてみたいよねぇ」
「あれうまいのかな」
「有名だからきっとおいしいよ!」
「それもそうか」

いつか沙羅が好きそうなものを全部かき集めたデートプランを練ってみよう。気付かれたら不機嫌になるかもしれないけど、きっと気付くよりも喜ぶ可能性の方が高い。

「これから行くところに切り株のケーキがあるかはわかんないけど、沙羅の好きなのがあるといいね」
「チーズケーキも!」

へらりと笑う沙羅を連れて、暗くなった道を歩くのも、悪くないかな。
…多少寒いけど。

「ねぇねぇいっせー」
「んー?」
「私いっせーのこと好きだよ」
「いきなりどうしたの」
「いっせーのこと好きだーって、思ったの!」
「俺も沙羅のこと好きだよ」
「えへへぇ」

多少寒くてもいいか。沙羅とこうして手を繋いで歩いてるだけで、なんだかんだ満足してるんだから。


2017/12/25