「えー、じゃあ文化祭は仮装喫茶でー」

今年の文化祭はハロウィンも近いし、高校最後の思い出作りにって、普段大人しいやつもなんとなくおかしいテンションだった。

「衣装どうする?」
「なんかそれっぽいの当てはめよーよ」
「どんなんだよ」
「えー?まゆしーは妖精さん?」
「それちがくね?」

ぶっちゃけ、部活でほとんど準備を手伝えない身としては拒否権なんて持ち合わせてない…と思ってたりする。
つーか勝手にやってくれるならそれが一番いい、とはあえて言わねーけど。

「ハロウィンっつったらあれだろ?魔女とか狼男とか」
「あ、その辺はやってほしい人いるんだけど…いい?」
「誰ー?」
「黒尾は狼男」
「…マジ?」

まさかの指名に黒尾さんびっくりだよ。

「うん。で、魔女は沙羅ちゃん」
「…まぁいいけど」

お前は相変わらずめんどくさそうな。
俺もめんどくせぇとは思ってるけど、こーゆー時くらい乗っとけ?じゃないとババアに見えんぞー…なんて言ったら殴られるから言わねぇけどよぉ。

「沖田は吸血鬼」
「めんどくせー」
「夜久は狐!」
「おー。オッケー」
「…お前、まさか全員決めてるのか?」
「え、決めていいならやる!」

まぁそんな感じで誰が何をやるか恐ろしい早さで決まっていった。
普段と比べるとみんなおかしかったけど、被服オタ(後から聞いた)の委員長のテンションが1番おかしかった。

次の日から、空き時間を見つけてはそれぞれ割り振られた仕事を少しずつこなしていた。お陰で正式な準備に割り当てられるHRで早くも衣装合わせになっていた。
…これに関しては委員長が好きでやってたんだろうけどな。

「ちょっといんちょー!待って、なにこれ!」

どっかで着替えてたはずの沙羅が勢いよく教室のドアを開けた。

「魔女っ娘メイドKARENちゃん☆の衣装だよ?」
「メイドじゃん!」
「魔女だよ!」

静かに入ってくるならまだしも、そんな叫びながら入ってきたら見るのが普通だろう。しかしまぁ、見たところで固まることしかできなかった。

「沙羅ちゃんにはぜひ着てほしかったの!」

肩なんて丸出しのちょーミニ丈のワンピース。ガーターベルトで留めたニーハイ。露出が高いぶんマントで防御力を高めている。故にほとんど足しか出てない。それでもかなりエロい。いや、だからこそエロい。

「でも着てくれたってことはちょっとかわいいと思ってくれたんでしょ?」
「…否定はできない」

極めつけにその顔。恥ずかしそうに赤くなってちょっと困った顔してるとかマジ反則レベルのかわいさだから。
つーかそれでここまで来たの?お前バカなの?

「もりー」
「なんだよ」

沙羅は別の班で作業してる夜久に近寄っていった。俺ではなく。基本夜久になついてるから仕方ないんだろう。夜久も沙羅にどうこう思ってないらしいし。
沙羅いわく、夜久はお兄ちゃんなんだと。

「これなくない?やだー。当日休むー」

おいおい。
夜久の裾つまむな。

「なんで?めっちゃかわいいじゃん」

やだ、夜久ったら男前。
でも頭撫でるな。

「もりーが言うなら…」

こら、ちょっと上目使いになるな。お前今めっちゃかわいいからな?男前の夜久だってコロッといくかも知れねーだろ?

「ねぇねぇ、やっぱり沙羅ちゃんって夜久くんと付き合ってるの?」
「は?!ち、違っ」

そりゃー勘違いもされるよな。
別に隠してる訳じゃねーけど言いふらしてるわけでもねーし、部活で時間ねーからデートっぽいこともそんなにしてねー。だから俺と沙羅のことを知らないやつは多い。

勘違いされたことと服のことで、沙羅の顔が赤いわテンパってるのかわいいわで、ボクはちょっと限界デス。

「ちょっとこいつ借りるわ」

俺よりも小さい群れに割り込んで、沙羅を拐った。

「…え、まさか黒尾…?」
「そ」
「うわー!ごめん夜久!」
「いや、俺はいいんだけど…黒尾がなぁ…」


▽▲▽


「ちょ、黒尾!なに?どうしたの?」

この時期空き教室は被服室になってたり倉庫代わりになっていたりで、どこも人の出入りがある。

「黒尾ってば!」

うっかり連れ出したはいいけど、こんな格好の沙羅を長時間連れ歩くのも不本意でしかない。
とりあえず階段をひたすら上る。さすがに屋上近くまで来てるやつはいないだろうと思ったから。案の定、屋上への階段は人気なんて全くなかった。

「くっ黒尾!待って!」

ひたすら引っ張って来たのがまずった。
なんつーか、エロい。

「…くそっ」
「え、私なんかした?」
「いや、お前は悪くねーけど」

なんつーか腹立ったってゆーか、なんてゆーか。でもこれだけは言っておく。

「お前夜久にくっつきすぎ」
「そんなことないよ」
「ある」

自覚ないから困るんだよな、このお嬢さんは。今だって疑問符を飛ばしながら考えてる。くそかわ。なんなんだこの生き物お持ち帰りしてぇ…じゃなくて、落ち着け俺。今は自覚を持つように諭すところだ。俺がしっかりしなくてどうする。
さて、どう言ったら自覚を持ってくれるのか…

「お前ね、今の格好わかってる?」
「だから教室から出たくなかったのに黒尾が引っ張るから」
「それは悪い。でもお前も悪い」
「悪くない」
「あのね、夜久もオトコノコなのよ?わかってる?」
「もりーより男前な男子は見たことがない」
「俺はある。じゃなくて」
「じゃあなに?」
「そんなカワイー格好して夜久が血迷ったらどうすんの」
「それはない」
「いや、わかんねーじゃん」
「もりーはそんなんじゃないもん」

なんなんだよ、その夜久に対する絶対的な信頼。そーゆーのは俺だけに寄せておけばいいんだっつーの。
あと夜久も絶対的な信頼を寄せられるのはバレー部だけにして。

「わっかんねーかなぁ」
「わかんない」

本気でわかんねーらしく、真面目に目を合わされた。こっちが怯むくらいに真っ直ぐ。
そーいうとこも含めて惚れてんだから、参るよな。惚れたら敗けってマジだわ。

さーて、どう説明するか…

「…俺、狼なんだよね」
「当日?」
「仮装もそうだけど、沙羅チャンは知らないカナ?男はみーんな狼なのよ」

考えた結果。言ってもわからないならと俺は沙羅のマントをずらして、白く細い首にかじりついた。



(ごちそーさまでした)


2016/11/01